アトリビューションの本質は分析ではなく、マネジメントだ!-相関編-

第三者配信やアトリビューションの概念の普及により、従来のCPC・CPAの評価から、初めてアトリビューション分析をおこなってみた!という方も増えてきていると思います。
ただその結果、データを計測し、実際に分析し、レポートまで作って「広告毎の間接的貢献度を認識できた」というだけで終わってしまい、肝心な広告費のアロケーション(最適分配)はどうしたらいいのだろう?という経験をされた方はいませんか?
本エントリーでは各社のアトリビューションの取り組みが増える中、上記のような分析で終わってしまい消化不良をおこさないためにも、次のアクションにつなげるためのアトリビューションマネジメントについてご紹介しています。

 

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分析データから相関関係を見出す

1990年代にデータマイニングの概念を広めた「おむつとビール」のお話。

米国スーパーマーケットで販売データを分析したところ、おむつとビールを一緒に買う相関傾向があることが分かった。そこでこの2つを並べて陳列したところ、売上が上昇した。

結果的にそんな事実があったとか、なかったとか言われていますが、「おむつとビールを一緒に置くと売り上げが上がる」因果関係を証明するために必要な要素の一つが、こういった相関関係です。逆に言うと少なくとも相関関係が無ければ因果関係も証明できないということになり、ここではまず相関関係について書いています。

わかりやすい相関の話

例えば、統計的に見ると身長と英語力には明らかに相関関係があります。
身長が高い人は英語力が高いですし、身長が低い人は英語力が低いのです。

しかし、身長と英語力の関係は、相関関係であっても因果関係ではありません。
英語力を上げる【ために】成長ホルモンを打っても無意味ですし、身長を伸ばす【ために】英語を学んでも無意味です。
身長が高い【から】学力が高いわけではありませんし、学力が高い【から】身長が高いわけでもないからです。身長と英語力に相関関係があるのは、「年齢と身長」、「年齢と英語力」にそれぞれ因果関係があるからです。

※実際に調べてみると、大学生のTOEICスコア平均より、小学生のスコア平均の方が高かったです(笑)ただ、受講人数が1000倍以上違うので、一般的には上記の理論は当てはまると思います。
これをWEBマーケティングに置き換えると、ありがちな同様の間違いを犯している可能性があるかもしれません。

アトリビューション分析という言葉が紹介されている記事や本などではよくコンバージョンパス・コンバージョンフローなるものを目にしたことがあると思います。

初回接触がViewで、コンバージョンはSearch。これって今まで見えていなかったけど、Viewって効果的!と決めてしまうのは、どこか「身長と英語力」の話に似ていませんか?

やや極端ですが、CVフローから読み取れるデータを言い換えると「ディスプレイを出稿しないことによって約9割のCVは発生しなくなる」って、それは本当に本当に本当?なんとなく、皆さんもこの「モヤモヤ」については共感頂けるんじゃないかと思っています。

いわゆるView(広告が表示されて、それを見た)は、WEB上を回遊していれば自然におこります。サーチは自然検索・PPC含め、少なくともユーザーが能動的に検索行動を起こす必要があります。
ディスプレイのクリックも同様に、ユーザーの能動的行動から生まれます。

「じゃ、Viewって効果があるように見えて当たり前だよね!本当は効果無いのに。」ということを言いたいわけでは決してなく、ディスプレイ広告とサーチとCVの相関関係は間違いなくあるんですが、それだけでは不十分で、それらの因果関係を証明できれば、どの施策へ、どれくらい投資すればいいのか?を見直すことができる。ということなのです。

とはいっても、国内でもそこまで緻密にアトリビューションマネージメントを実施した事例は、ほとんど公開されていません。
しかしハーバード大学 経営大学院の論文「Do Display Ads Influence Search. Attribution adn Dynamics in Online Advertising」で具体的な紹介されていましたので、ここで解説していきます。

出典:”Do Display Ads Influence Search. Attribution adn Dynamics in Online Advertising”

※論文の引用に関しては、本ブログでの記事に対して許諾をいただいております。

広告評価の変化とジレンマ

本論文は、リスティング広告とディスプレイ広告の相関関係の調査モデルを開発するため、インターネット広告を使って新規口座開設顧客を獲得しているある大手銀行のデータを使って検証したとのこと。はじめに広告の従来型の評価方法に対して、次のように問題提起しています。

The introduction of online metrics such as click through rate (CTR) and cost per acquisition (CPA) by Google and other online advertisers has made it easy for marketing managers to justify their online ad spend in comparison to the budgets used for television and other media. However, these metrics suffer from the fundamental problem of attribution, since they give credit to the last click and ignore the impact of other ad formats that may have helped a consumer move down the conversion funnel. Consider, for example, a consumer searching online for a bank to open a new checking account. During this search, the consumer sees a paid search ad for a particular bank, clicks on it, and converts, recalling that she saw display ads of the same bank a few weeks earlier. How should search and display ads be credited for the conversion, and to what extent?

Googleなどが提唱するCTRやCPAと言ったネット広告の効果測定指標は、マーケッターがTV広告や他メデイアと比較してネット広告に予算配分することを正当化しやすい。
しかし、これらの効果測定指標には基本的な問題がある。と言うのは、これらの指標がラストクリックのみを評価し、消費者の態度変容をもたらしたかも知れないあらゆる広告の効果を無視している点である。
例えば、消費者が新しい銀行口座を探しているとしよう。消費者はある銀行のリスティング広告をクリックしコンバージョンした。彼女はこの銀行のディスプレイ広告を数週間前に見ていた。こうした場合にリスティング広告とディスプレイ広告はどのように評価されるべきであろうか?

ここまでは従来も提唱されてきていますが、その後、次のように続けています。

Most managers recognize the attribution problem, and intuitively believe that display
and search ads interact to influence consumers. Recently, analytical firms and ad agencies have started addressing this problem, but most of their solutions tend to be ad‐hoc. For example, some industry models give equal weight or credit to all ad exposures received by a consumer in, say, a two week period; others give more weight to recent ad exposures and exponentially lower weight to past ads.

多くのマーケッターは従来の広告評価について問題意識を持っており、アトリビューション分析に関して興味を持っている。ディスプレイ広告とリスティング広告は相互に影響を与えていることを確信しているのだ。最近では、ツールベンダーや広告代理店がこの問題の解決に向けて動いているが、彼らのソリューションには局所的であることが多い。例えば、あるモデルでは、消費者が接触した全ての広告を同じように評価したり、あるいは、直前に接触した広告に極端に重みを付けて評価していたりする。

確かに、従来と比べ何百・何千倍のデータを分析するわけですから、今まで以上に複雑化し考慮するデータが多くなったり、処理自体に時間がかかったりと、アトリビューション分析の全体俯瞰はしきれていないと言えます。
簡単に言えば、まだまだ手探りの状態なわけです。ただ、分析する以上はそれが断片的であったとしても、何かしらの結論は求められますので前述のような限定的なソリューションになりがちなのではないでしょうか?

「残念ながら、特性の異なる広告が、どのように消費者に寄与したか?という点についてはまだよく分かっていない。」としたうえで、この研究においては、リスティング広告とディスプレイ広告の相関関係を見出すために、次の点に尽力したと述べています。

01 : Do display ads influence paid search and vice versa?

02 : If so, how large are these effects and what dynamic patterns do they follow?

03 : What are the implications for online marketing metrics and optimal budget allocation?

01 : ディスプレイ広告はリスティング広告にどう影響を与えるか、あるいはその逆は?
02 : もし影響があるとすれば、それはどの程度か?またどのような法則があるのか?
03 : 効果測定はどのように考えるべきか?最適な予算配分は?

国内で実施されているアトリビューション分析のほとんどは01~02で終わってしまっているのではないでしょうか?
それは取り組みへの理解、代理店間のコスト開示の問題などがありますが、国内に限った根本の問題は、現在のアトリビューション貢献度算出モデルに対し懐疑的であり、本当にそれでアロケーションが成立するのか?という点にあると思います。本研究ではその点の手法についても触れており、それは後ほどご説明致します。

アトリビューション分析事例

ここからは日本国内ではあまり紹介されていないような、ディスプレイ広告がリスティングに広告に、どれだけの影響を与えているか?というアトリビューション分析の結果を、具体的な数値で報告しています。(一部割愛)

Papadimitrou et al (2012) conduct a field experiment to explore the impact of display exposure on search queries. They find that exposure to a display ad increases the number of relevant search queries submitted by 5%‐25%.

パラディミトロウは、ディスプレイ広告のサーチクエリに対する影響を調査した。彼らはディスプレイ広告によって5~25%程度、サーチクエリが増加することを解明した。

A survey conducted by iProspect (2009) finds that about 50% of all internet users react to a display ad by conducting a search related to the brand or product described in the ad. The study finds that 14% of users make a purchase after conducting the search. A study by comScore (Fulgoni and Mom, 2008) finds a 38% lift in branded search activity for consumers exposed to a display ad. The study tracked individual consumers exposed to a display ad, and compared their behavior with a group of similar consumers not exposed to display advertising.

iProspectの調査によれば、約50%のインターネットユーザーはディスプレイ広告に記載された企業名やサービス名に関する検索をすると言う。そして検索した後、14%は購買に至ると言う。コムスコアの調査では、ディスプレイ広告に触れた人のブランド名による検索を38%増加させることを見つけたと言う。

An iCrossing study (Malm and Hamman 2009) finds a 14% change in search visits after a company activated its display advertising campaign. In our application for the bank, the bank’s ad agency also conducted an experiment to find that display ads improve search ad conversion by 15‐20%.

iCrossingはディスプレイ広告を実施後に検索ユーザーの14%に変化が見られたと言う。私たちの銀行の調査においても、銀行の広告代理店はディスプレイ広告が15%~20%程度のサーチを増加させたと言う。

しかし、こういった事例を紹介した後で、下記のように問題点を示しています。

appear to influence the effectiveness of search ads. However they lack two important elements that we consider in our study.

これらの研究結果からディスプレイ広告はリスティング広告の効果に対して影響があると考えられる。
しかし、これらの研究には大きく2つの重要な要素が欠落している。

アトリビューションマネジメントに欠落している2つの要素

1つ目は可視化したい効果をより明確にする為に、計測対象以外の外部要因との相関関係を見極める必要があると言っています。
例えば、ユーザーがディスプレイに接触した後、そのまま検索行動に至るわけではなく、他の様々な影響を受けた上で検索行動に至ると考えるのが自然です。その為、外部要因を排除したデータに整形した上で分析しなければ、ディスプレイによる検索行動の効果を明確にすることはできません。

First, almost all of these studies ignore the dynamic effects of advertising, whereby display ads may impact consumers’ search behavior over time. Studies that attempt to incorporate dynamics do so in an ad‐hoc fashion. For example, the ad agency for our bank decided to use a two‐week period (an ad‐hoc assumption) to examine its effect. In our application, we show that these dynamic effects are very strong and may last several weeks. Ignoring them can lead to significant underestimation of the effectiveness of online ads.

1つ目は、ほぼ全ての研究において、広告間の動的要素について検討されていないこと。
それによってディスプレイ広告が消費者の検索行動に後日影響を与えた可能性を無視している。本研究では動的な相関の解明を試みている。例えば、私たちの銀行の広告代理店は、効果検証の期間として2週間を採用した。しかし、私たちは動的な効果が極めて強く、数週間は見なければならないと主張した。数週間前の効果を無視することは、広告効果を著しく低く評価することになる。

2つ目は前述の事例は検索行動に対する影響を数値化していましたが、それがどのように成果につながったか?までは言及されていません。ここについて、日本国内ではVTS(ビュースルーサーチ)によるCVまで算出している例もあります。

Second, most of the previous studies used click‐through rates or similar metrics to measure the impact of display ads on search. In contrast, we examine how display ads influence search clicks, conversion and ultimately the profitability of the firm. This allows us to determine appropriate budget allocation between search and display.

2つ目は、先行研究の多くはディスプレイ広告のサーチへの影響をCTRといった評価指標を用いていた。これに対して、私たちの研究ではディスプレイ広告のサーチへの影響を、コンバージョンや最終的に企業にもたらした利益で評価した。これによりサーチとディスプレイの広告予算配分は可能にした。

このように、従来の問題点を指摘したうえで、ここから基本概念説明、モデリング手法、分析手法についてまでを詳しく解説してくれています。

概念的なフレームワーク

Figure 1 shows how the firm’s online advertising strategy may influence consumers’ purchase behavior and the firm’s budget allocation. In this framework, the firm allocates a budget between search and display ads that determines the number of ad impressions to consumers.

下図は如何にネット広告が消費行動に影響を与えるか、また企業の予算配分の考え方を示している。このフレームワークでは、インプレッション数によって、リスティング広告とディスプレイ広告の予算配分を決定している。

These in turn affect display or search clicks, and eventually, conversion. Two important aspects of our framework should be noted. First, we expect strong interaction between search and display ad impressions and clicks. The empirical results will show if display ads indeed influence search ad effectiveness, and if so, by how much. Second, the system explicitly recognizes endogeneity, whereby the firm’s advertising budget influences consumers’ exposure and purchase behavior, which in turn affects how much the firm spends on advertising.

これらは、次々にディスプレイ広告とリスティング広告のクリック及びコンバージョンに影響を与えている。このフレームワークには、特筆すべきポイントが2つある。ひとつは、リスティング広告とディスプレイ広告の間に強い相関がある。私たちは経験的に、ディスプレイ広告はリスティング広告の効果に影響を与えると考えているが、もしそうだとしたらどの程度なのだろうか。ふたつ目は、このフレームワークには、内生性がある。すなわち広告予算を増やすと広告のリーチや購買行動が増えるということだ。

広告間の影響、内生性については、いずれも「感覚値」としては認識しているものの、具体的にどれくらいなのか?という点を定量化できないと最適なバジェット配分はできないため、このフレームワークを定量的にしていく作業をおこなっています。

Paid search data capture weekly spend, clicks, impressions, and the number of applications completed through the paid search ad’s landing page. The display data also contain information on weekly spend, clicks, and impressions. Using internet cookies, applications completed were attributed to display advertising if a consumer had seen a display ad at least one month before converting through the display ad network’s landing page using organic search or a direct link. However, the display advertising data excluded display‐driven paid search conversions, as the paid search campaigns are overseen by platforms maintained by search engines unrelated to the display ad networks.

リスティング広告のデータには、週次でのコスト、クリック数、インプレッション数、コンバージョン数があった。ディスプレイ広告のデータも同様に、週次でのコスト、クリック数、インプレッション数があった。クッキーを使うことで、自然検索や直リンクでコンバージョンした場合においても、ディスプレイ広告のアトリビューション効果を計測した。しかし、ディスプレイ広告のデータには、ビュースルーサーチに関しての情報は含まれていなかった。

まず、前提条件として述べるべきは、分析に活用したデータは過去にレポートとして使われた週次データであり、その取得データにはビュースルーサーチが含まれていなかったとのことです。

それを前提に、以下の数字を使ってその相関係数を表すことから始めました。
・リスティングImp/Click/CV/Cost
・ディスプレイimp/Click/CV/Cost

このように広告間の影響、内生性を相関関係から定量化し、次に複雑な相関関係を分析するためにあるモデリング技術の解説に進んでいきます。

次回は因果関係の証明編に続きます・・・

※誤訳のご指摘、ご意見などがあれば、お願いいたします。

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