今日から実践できる!分析の力で組織を動かす極意~データ&ストーリーLLC 柏木吉基様~

データ&ストーリーLLC 代表 多摩大学大学院ビジネススクール客員教授 横浜国立大学非常勤講師 柏木吉基 様
データ&ストーリーLLC 代表。多摩大学大学院 ビジネススクール客員教授。横浜国立大学 非常勤講師。大学卒業後、日立製作所にて海外向けセールスエンジニア。米国にてMBAを取得後、2004年日産自動車へ。海外マーケティング&セールス部門、組織開発部ビジネス改革マネージャ等を歴任。2014年10月独立。

 
今回は全文1万文字と長いです。お昼休憩や、通勤・通学の最中にどうぞ。
 

課題解決家・柏木吉基が誕生するまで

[松本] 今回のゲストは、データ分析や統計に関する本を既に9冊も出版されている(2016年06月現在)柏木吉基さんです。満席になっているデータ活用セミナーは柏木さんが講師をつとめられていることが多いですね。それぐらい人気の方なんです。

初めてお会いしたのは、私が通っている多摩大学大学院のクリティカルシンキングの授業です。柏木さんには講師として指導頂きました。何が課題かを明確にする様々な手法を学べて、授業のたびに感銘を受けました。

ところで、授業でお会いする前に、実は柏木さんが出版された本を買っていまして、本棚に名前があったときはビックリしました。この本ですね。

 

 

[柏木] ありがとうございます。(笑)

[松本] 柏木さんは世間一般に言われる「分析者」の中でもかなり異才だと思っています。深層学習できます!TensorFlow触れます!という手法特化型が多い中で、何を解決すればいいのか?どうやって説得するのか?という目的思考型を極めておられる印象を持っています。

どのように分析のフレームワークや思考法を身に付けられたのかを知りたくて、今回のインタビューを申し込ませていただきました。

 

 

[柏木] 解りました。では私自身の背景をお話しした方が良さそうですね。

私自身は理系出身ですが、統計や数字を専門的に学んだとはありません。新卒で入社した会社は日立ですが、分析の業務経験もあまりありません。アメリカのビジネススクールに留学して、Decision & Information Analysisの授業を受けたのがきっかけです。日本で言うところのデータ分析、統計学の授業とは異なり、「如何にデータ(分析)でビジネスの具体的な成果を出すか」を追求する学問です。「これは面白い!」と思いました。授業を通じて様々な手法を学び、武器を手に入れました。

その後、日本に帰国して日産自動車に転職しました。新参者だったので、新卒の方が車について知っているのに先輩面して働くのに苦労しましたね(笑。

社内には販売に関するデータが蓄積されており、それらは多くの人が参照していました。今で言うところのDMPのようなものかもしれません。ですが、上手く活用し切れていないなと感じていました。既にゴーン体制になっていましたが、データの活かせる土壌という意味ではまだまだでしたね。

もし自分なりに工夫して見せれば、今まで解っていなかったことが解るようになるかもしれない。それから、敢えて自らデータをいじりながら、いかに価値ある情報を取り出せるかを積極的に考えるようになりました。

そうした経験をトライ&エラーしながら積み重ねていると、何が相手に刺さるか、刺さらないかや、分析結果の良し悪しとは異なり、組織として価値の有るなしとは何なのかが経験値として得られたわけです。

そうした経験が血となり骨となりフレームワークや思考法に確立されていきました。

[松本] だから柏木さんの書かれたデータ分析の本は、分析結果をどのように活かすか等に焦点を充てた内容も充実しているんですね!

ところで、多くのデータがあり、それを使っている人が大勢いる中で、なぜ柏木さんだけがデータが活用し切れていないと気付けたのでしょうか?この本にもあるように、活かし方に悩んでいる人は大勢います。

 

 

[柏木] 大学院の授業で多くの武器を手に入れたからだと思います。武器があるからこそ「今やっているその仕事って本当に必要ですか?」「もっと良い方法があるのでは?」と見ることができました

もし多様な武器を持っていなければ、無駄な時間を削る、余った時間で何かを始める、そのために何が必要かを見極める、そうした挑戦には取り組めなかったでしょう。

思考停止したままでも、仕事ってとりあえずやっていればバツが付くわけではないので、それを敢えて止めるというのはサラリーマンとしてはリスキーな選択なので、放っておくと人は無駄でも非効率でもやり続けてしまうものです(笑。

[松本] データを使ってどのように意思決定に繋げるか、苦手な人が多いかもしれません。

そのためのアプローチについて書かれた本は少ないですが、柏木さんはリアルに丹念に描かれています。こうした内容が書ける背景は、さきほどおっしゃられた日産時代の経験に培われたのでしょうか?

[柏木] そうでもないんです(笑。

私自身、理系の中でもいわゆる典型的な理系人っぽくはないと思っているんです。理系の中では自分の得意領域となるととことん喋られる人が多くいると思いますが、私自身はそうはなれなくて、どちらかといえばそうした理系人のコミュニケーションを手助けすることが得意でした。

ある人の得意領域、別の人の得意領域、それぞれを組み合わせるとさらに別の特別なアウトプットが出る、というのを意識せずとも俯瞰して見れたのです。

日立時代は技術・設計畑にずっといながらも同時に顧客と直接対峙、交渉する立場だったので、相手の言っていることを理解して、違う相手に伝わるように翻訳する、そうして組織で成果が出るようにする。そうした経験があったおかげです。

例えば技術者と一緒に客先に行きます。すると、説明自体は合っているんだけど、お客様には全く伝わらないということがたまに起きます(笑。「技術」の説明だとお客様はわからない、ということがわからない。そういう時は私が「それじゃあ伝わらない」「こう伝えないといけない」と翻訳していました。

データ分析も一緒なんです。「こんな良い分析ができた!」という内容の殆どが、客先には持っていけない。専門的過ぎるんですよ

ただ、誰もがスーパーマンになれるわけではないので、組織には専門家には翻訳者を付けるといった配慮が必要だと感じています。全てを専門家に求めるのは酷です。

 

データ分析の修羅場に立つ

[松本] 次に、日産時代に一番印象に残っている経験を教えてください!

[柏木] 良いデータ分析結果がそのまま良い成果につながらなかった経験として、中近東向けのマーケティング&セールスをする部署での出来事を思い出します。担当者が市場予測を行い、最終的には会社の中期計画に落とし込まれます。担当者は、市場そのものがどれくらいの規模になっているかを数字で示す必要がありました。

私はそのために原油価格やGDPや為替などを説明変数に重回帰分析を行いました。結果、そこそこ説明もできる、予測にも使えそうなモデルができたんです。それまでは重回帰分析すら使われていなくて、昨年は5%伸びだから次も5%伸びだろうという意思決定がされていたそうです。大きな一歩ですよね、データ分析的には(笑。

意気揚々とフランス人の役員に報告しに行ったら、ものすごく怒られたんです。重回帰分析の仕組みがわからずブラックボックスになっている。それを結果だけ持ってきて承認しろとは何事だ!と雷が落ちました。

その時に、精度が良くても相手の腹に落ちなければダメなんだと痛感しました。分析としては最高級にうまくいったと思います。組織ではこういうことがあるのだ、と感じた例です。

もう1つ、上手くいった経験として、海外子会社の設立のために組織体制作りに協力した出来事を思い出します。他社事例などを見て、回帰分析をしながら新組織でのおおよその仕事量を弾き出し、だから何人ぐらい必要だよねと結論に繋げました。過去は鉛筆なめなめして、なんとなくやっていたそうです。

大きい会社なので、何をするにも反対勢力がいます。提案したい責任者としては、横槍が入るのはいやですよね。そのための武器を責任者が欲していたわけですが、私の提案内容はまさに客観的な「武器」となったわけです。

自分の思惑ではなく過去のデータを参照して弾き出した数字というのが説得力を持ち、うまく着地することができました。会社の意思決定の質そのものを上げることにもつながりました。

私自身も、反対勢力がどういうツッコミをするか、どういう理由でOKになるかをつぶさに学べました。難しいデータ分析の結果を武器に持たせると、反対勢力から「こんなの俺わからない」と言われた瞬間に抗争が起きます(笑。簡単な内容の積み重ねで「OK」という意思決定に繋げる得難い経験でした。

この経験から、簡単な分析結果をつなげて、筋の通った全体のストーリーに仕上げることに拘るようになりました。分析で繋がれたストーリーは、どれか1つが「ちょっと難しい。わからない」と拒否反応を示されてしまうと、それだけですべてのストーリーが崩壊してしまうんです

[松本] ”腹落ち”は、あらゆるデータサイエンティストが痛感している話だと思います。何をいっているかわからない、と言われると全てが最初に戻ってしまう。どこから説明していいか分からないですよね。

誰にどこまで理解して貰うべきなのか。すごく悩みます。分析の本質を、数式を使わず言葉で話すことが一番なのですが、それができると苦労しませんよね。

[柏木] その通りです。日産で分析し始めた頃はクラスタ分析など様々な手法に凝っていましたが、先述したような目に遭うと、周囲も十分理解できる手法のみを使うようになりました。

もう1つ貴重な経験があります。3冊目に「シンプル統計学」という本を書いた時に、編集者から何度も「階段を10段降りましょう」と指導を受けたんです。自分としてはものすごくわかりやすく書いたつもりだったんです。でも編集者からは「こんなの読んでもわかる人いません」という反応でした(笑。

 

 

「一般の人がどう感じるか、柏木さん理解していませんよね?」と言われたんです。10段降りて、10段降りて…。最初書いた時に「これぐらいは必要でしょ」と思っていた内容からして100段ぐらい降りました(笑。統計をやったことがない人に教えるとは、こういうことだったのか!というのがよくわかりました。

[松本] なんとなく分かっていたことを、何も分かっていない人に1から説明するというのは一種の訓練ですね。今までならRがやってくれたから、ある数字の一部だけを見て分かったつもりで済ませていたことも、1から説明するとなると私も自信がありません。

ただ、深層学習や集大成としてのAIなど世間ではより難しい分析に挑戦している傾向があります。もっとも、ほとんどの現場では、そんなことしなくても良いのにという実態が多いように感じていますが…。

[柏木] そうした高度なスキルを持つユーザーと、そのスキルに達していないユーザー、この2つは本当に融合する必要があるのか?という点は考えないといけないですよね。

別な例えでお話すると、どんなビジネスマンであっても自分の仕事にかかっているコストと、だからこそ生まれる利益、これらは知るべきだし、どうすれば生まれるかも知っておくべきです。

一方で、世の中にはプロフェッショナルとして公認会計士という存在がいます。営業やマーケターが、公認会計士と同じぐらいの力量を持ち、決算書を作れるべきかというと違いますよね。

データ分析の世界では、これと同じことが言われています。これからは会計知識必要だからみんなで公認会計士目指そうぜ!と言っているようなものです。もっと高みを目指そうとするのはそうするべきだし、そうじゃない人はどこかで切り分けるべきなんです。

 

 

[松本] 仕事の現場で困ったことがあったとき、分析専門のコンサルティングチームに依頼するしかないんじゃないかと悩んでいる人は大勢いますが、分析自体は専門家じゃなくてもできるんですよね。初めの一歩に、物凄く高い階段を課している人は多いと思います。

たまに知り合いから「回帰分析の結果、P値が10%でした、これは5%有意で見たらアウトだから、この分析自体も失敗ですよね?」といったような相談をもらいます。でもP値なんて”失敗する可能性”だと考えれば、あとはそのリスクをビジネスが許容できるかで判断したら良いと思うんです。

天気予報で雨の確率が10%と言われたら傘持っていかないでしょうし、手術の失敗確率が10%と言われたら誰だってためらうでしょう。でも初めて分析してます!という人は、そう見れない人が多い。教科書に準拠しているからです。

[柏木] 学問的にはYESだけど実務的にはNOなことは、経験がないと腹落ちしないでしょうね

私の場合、良い答えが出る・出ない以前に、明日までに答えを出さないといけない修羅場に何度も追い込まれたおかげで自然と克服しました。

なかなか答えが出ない、でもあと1時間で提出しないといけない、そんなときにP値5%かどうかというのは優先度が高い問題でもない(笑。後になって考えてみると5%だろうと10%だろうとあんま変わらなかったんじゃないか?と考えるようになりました。

こういう修羅場を経験すると、こういう依頼ならここまで妥協しても大丈夫だとか、こんなに重要ならキッチリ抑えるところを抑えないと後々に炎上したときに大変なことになるなとか、バランスが取れるようになります。職種や領域によって違うとおもいますが、これは経験値と肌感覚で積み重ねて、こうした正解のない問題に向き合うしかないでしょう

[松本] 修羅場ですね。

[柏木] そうですね。日産時代、仕事をご一緒させて頂いた方々はそれなりの役職の方々が多く、様々なバックグランドをお持ちでした。国籍も多様です。日産は、役員クラスでも在籍して1年、2年というのがザラにいたので「説明しなくてもお解りだと思いますが」という枕詞が通用しない。

相手が何を理解していて、どういう思考回路かもわからない、なのにあと5分で了解を取り付けないといけない。そういう修羅場に身を置くんです。何度も何度も。

「この分析手法はですね」と説明し始めた瞬間、相手から「お前もう帰れ」と言われるんです。2分位で説明して、1分で質問を受けて、残り2分で承認を執らないといけない状況になると、データ分析でこんな結果が出ました、なんて言っていると「お前何しに来たの?」と言われて、多分もう会ってもらえないです。

その場で全てを説明して、この場で承認を取り付けようとなると、まず全体が解るストーリーが必要です。向こうの方が頭の良さは数倍良いので、自分がいくら自信満々で持って行っても、あっという間に論破されるなんてことよくありました。
 

数字から仮説を作らない。一番重要なのはストーリー作りだ!

[松本] そうした経験値が少ない人が分析に携わるときに、どうしても困っていることは、いわゆる分析のストーリー、レシピ作りだと思います。これは経験値の差がかなり効くと思います。この本なんかレシピ作りを学ぶうえで最適な本でした。

 

 

例えば…(カメラマンとして参加している営業の檜本に声をかけ)明日までにここ半年で売上が急増している理由を見つけてください、と言われたら何をしますか?

[檜本] えーっ、何やろう?理由??えっ??

[柏木] 一番に何に手をつけますか?最初の10分、何をしますか?

[檜本] えっと…まず今まで使っていただいていた金額より、さらに金額が増えたアカウントを探して…。

[柏木] うん、そういうアプローチは、全くダメなんです。

 
(一同爆笑)
 

[柏木] みんなそうなんです。データを触ってみて、とりあえず何か見えるかもしれないと考える。

料理に例えると「とりあえず玉ねぎ刻んでみよう」と言っているようなものです。本当なら、手元にどんな食材あるんだっけ?これで最後まで求められる料理作れるんだっけ?作らないといけない料理のレシピって何だっけ?と考えないといけない。

つまり、まず何をやりたいんだっけ?というのを最初に考えないといけない。考える順番を間違ってはいけないと思います。データを一回抜きにして、何が必要かをまとめてから、必要に応じてデータを触るべきなんでしょう。

独立した時は、ロジカルシンキングを教えるなんてほとんど考えてもいませんでしたが、やっぱりここが大事なんだな、と思うにいたりました。「考え方」が手法を左右するんです

[松本] 確かに昨今は難しい手法に目がいってしまいますが、解決しなければいけないのは「課題」であって、深層学習などの「手法」を使うことではないはずですね。思考に焦点を充てた本も出版されています。

 

 

分析現場あるあるですが、数字が溜まってきたからちょっと分析して、という話があります。そういうときに何が課題か?どういう問題があるか?と聞くと、数字分析したらわかるでしょ?と言われるんです。つまり、依頼する側も課題が何かわかっていない場合がある。課題は分析すれば見つかると考えている人が非常に多いですよ。

 

 

[柏木] よくある誤解ですよね(笑)。全くそんなことないんですが。

[松本] いったん数字を整理して、初回内容として提示すると「知ってた」というリアクションを受けた、という話は非常に多いと思います。

[柏木] この考えが全てではないでしょうが、データ分析をして、その結果から「驚き」や「気付き」が得られるヒットの確率は恐ろしいほど低いと思います。分析をやる前に考えた目の付け所とか、いつもと違う着想で驚きや気付きに至ることのほうがあると思います。

「気付き」というのは、画一的だったデータの見方を変えることだと思います。「そんなことがこんな手法で見れるんだ!」という驚きですね。それは分析をやる前の話です。

[松本] 分析トータルにかける時間を考えると、レシピ作りにどれくらい時間を割けるか、そこに時間をかけないと良いアウトプットって出ないですね。

[柏木] 分析って何も無い状態からボタンを押せば答えが返ってくるもんじゃないですよね。何が知りたいのか、必要なデータは何か、それだけでも時間がかかります。

経営者、マネージャー向けの講習でよく「時間を作ろう」と言っています。これはビッグデータの基盤を作る前にやらないといけない話です。ボタン押せば分析の結果が出てくるのは、既にあらかたの準備が整った後の話です。

作業としてもトライ&エラーが必要です。今日始めた人に5分で結果出してというのは酷な話ですよ。突き詰めて考えると、経営者はどこまで本気なのか?にかかっていると思いますね。

ちなみに、私のデータ分析の研修では午前中手を動かせません。PC持ってきているのに(笑。まずレシピを作って、何のために分析するのかを考えて、一切の不明点が無くなって、ゴールが明確になってからでないと作業自体はさせません。

[松本] 本来のあるべき姿はそういうことなんでしょうね。

分析、レシピのストーリー作りについて、どういう風に柏木さんは作っておられるのでしょうか?

[柏木] 多摩大学院で受け持っているクリティカルシンキングの授業のままですね。

コツとしては、自分も含めてあらゆる人が言っていることを殆ど疑ってかかる、ということでしょうか。その裏に何があるの?みんなそう言っているけど本当にそうなの?そうじゃなかったら何が起こるんだろう?と分解して考えるんです。そうするとアイディアが広がるし、それらを構造化して繋げるとストーリー化されます。それが、新たなバリュー(価値)になります。

相手が言っていることを数字で確かめるだけなら「やっぱりね」で終わってしまうんです。自分が分かっていることをデータで確かめても意味がないんです。

データをいじくって何かが出てくることを期待するのではなく、みんなこうだと言っているけど本当にそうなの?と天邪鬼的に考える。データで確かめたの?と。それはデータ分析の後では気付けないです。

[松本] 天邪鬼に考えるって大事ですよね!相当な理論武装が必要だと思います。ですが、そのための時間が無いと悲鳴を上げる人は多くいると思います。ここだけはちゃんと抑えて説明しないといけない、というポイントはありますか?

[柏木] 自分の作戦としてやっていたのは、相手が右脳型・左脳型かを見極めて、それに合わせて報告を上げていました。日産時代の私の最後のビッグボスはインド人だったのですが、彼は100×100の数字の羅列を見て、5秒ぐらいで何を言わんとしているかは直ぐに解るんです。だから生半可な数字を出すと、そこまで気が付きませんでしたというような指摘を10秒で返してくる(笑。

 
そういうときには絶対に数字を表に出さない。逆に、むしろクリエイティブな人に数字で順序立てて説明すると、物凄く腹落ちしてくれる。これはテクニックでしかないですが。

ストーリーテーリングも、数字付きなのか、粗筋を大切にするか、それは複数パターン用意するんです。相手のことを考えずに何でもかんでも同じようにすると、絶対に上手く行かないです

[松本] 大会議の場合はどうですか?右脳、左脳が混在していると思うのですが。

[柏木] 意思決定者か誰か、です。少なくとも外資系企業だと、最後の責任者は誰か?が大切です。

[松本] それはすごく解りやすくていいですが、日本企業では通用しないかもしれない(笑。最終意思決定が誰なのか解らなくて、何となくの合意ムードを作る場合は、雰囲気作りが大事なのかもしれませんね。

[柏木] もう1つコツをあげるなら、数字は一度出してしまうと引っ込められないんです。だから、数字は出さなくて良いなら、それにこしたことはないんです。

最初は数字を出さずにコミュニケーションを取るんです。で、根拠を問われたら、数字を小出しにします。その逆はありえません。途中で、違うんですと引っ込めるのは不可能なんですから。

分析が好きな人は「この結果凄いでしょ?」と全て見せようとするのですが、逆効果だと思いますね。データ分析なんて100%完璧なんてありえないんです。突っ込もうと思ったら、必ずどこかは突っ込めるんです。それを覚悟で提出するなら良いんでしょうが、リスクは高いですよね。

[松本] デジタルマーケティング領域は先に数字が全て出揃う傾向にあるかもしれません。

[柏木] 「先に数字ありき」の良いところもあります。仮説は主観ではなく客観的なものである、という意味では間違っていません。

ただ、あんまりビックリするような答えは出てこないですよね。それは、今ある数字から立てた仮説だからです。数字から仮説を定義してはいけません。仮説から数字を生み出さないと

 

今日から始めるデータ分析の「心構え」とは?

[松本] データサイエンティストのネタとして「データ分析にこれから力を入れようとしていますという会社に転職するな」という話があります。かかるコスト、労力、時間、これらが作業者の声で全て承認降りるならそれに越したことはないですが、まずそんなことは無いわけです。

社内に、恐らく今まで無かった会話が飛び交うと思うのです。そうなったとき、必要なのは分析にかける時間ではなく、分析以外の作業、例えば説得などに時間が取られるでしょう。開拓者精神があるなら別ですが、分析そのものにしか興味を持てないなら、止めておけと(笑。

[柏木] わかるような気がします(笑。

[松本] 周囲の理解と、やりきろうとする自身の覚悟が大事です。本人自身が上手くいくために、知っておくべきこと、注意しておくべきことはありますか?

[柏木] いきなり難しいことに挑戦しないことです。どんな手法であっても1回でオールOKというのは、まずありません。時間がかかります。だとしたら、簡単なところをグルグル回してセンスを磨くことが大事だと思うのです。まずは身近なものでやるべきでしょう。

あとは、成果が見えるものがいいと思います。その結果で、相手が喜んでくれればベストだと思います。やって良かったと言われるかどうかが大事ではないでしょう。

そのためには目的志向で取り組むべきなんです。何に困っているかを知る。自分のやりたいことをやっていては、相手が喜んでくれるかどうか解りません。データ分析しても、相手が「へぇ~」で終わってしまいます。目的志向で、できるだけ無駄なものを省く。これが大事だと思います。

[松本] 分析って、テクニック重視で、一人でこつこつ極めていくイメージでしたが、プロセスをいかに回していくかという見方をすると、周囲を巻き込んでいけるかが大事ですね。

最後の質問です。

ある程度の経験を積んでくると、もっといい分析にしたい、品質を上げていきたいと思うのです。良い分析、質の高い分析をやりたい!という人に向けて、どういうアドバイスができるでしょう?

[柏木] 私自身は、分析のゴールは自分が出した提案に対して承認を貰うことでした。だから、中身が悪くても承認が貰えれば、それは良い分析なんです。承認を貰い、組織を動かす、モノを動かす、これが実現するなら分析のクオリティは厳密には問わなかったです。そういう意味で、より質を高めるという着想は無かったですね。1か0か、だったんで。

もちろん、後味の良さはありましたよ(笑。ただし、ビジネスだったのでそこは割り切っていました。ありきたりな分析だったとしても、相手が結果を見て満足していれば、それは良い分析だと思います。

[松本] なるほど。分析内容そのものにフォーカスし過ぎると陥る罠なのかもしれません。

[柏木] そうですね。ゴールをはき違えないことです。何を求められているのか。良い内容だったけどOK貰えなかった、それは実務家としては悪い分析なんです。

分析専門家にとっては別な解釈でしょう。組織の中での実務家としては相手の承認を貰うために分析を行うのであり、良い精度を追い求めることが必ずしも目指すゴールではないはずです。

[松本] 身に沁みます…。今日はお時間いただき、ありがとうございました!