デジタルマーケティングとWEBマーケティングが違う理由


この記事は、2015年1月25日に開催されたHTML5カンファレンス2015にて開催された講演「デジタルマーケティングことはじめ」を文字起こししたものです。一部、読み易く並び替えている部分もあります。予めご了承ください。

当日のイベント雰囲気

 

プロダクトの生死を決めるのは、何でしょうか。

エンジニアが徹夜でコードを書きサーバを構築したとしても、全くバズること無く終えるアプリやWEBサービスが星の数ほどあることから解るように、少なくとも「技術」は必要条件であったとしても十分条件では無いのでしょう。

私が考えるに、生死を決めるのは「マーケティング」ではないでしょうか。特に、昨今の状況においては「デジタルマーケティング」に成功するか否かが、プロダクトの生死を左右するとさえ思っています。

 

では本日お越しのエンジニアの皆さんに質問です。「デジタルマーケティング」とは何を指すでしょうか。リスティング広告でしょうか?DSPでしょうか?それとも流行りのコンテンツマーケティングでしょうか?

しかし、これらはどちらかと言えば「WEBマーケティング」が適切な表現であり、もう少し広範囲な領域をもってこれがデジタルマーケティングだと言いたいものです。

そこで「デジタルマーケティング」が何かについて考えていきたいと思いますが、その前に、「マーケティングが大事」と言ったときの反響から発するに、そもそもの定義について共通認識を持ったほうが良さそうなので、まずはそこから話していきます。

マーケティングとは何か

マーケティングと言えばフィリップ・コトラー氏が定番なのですが、彼自身が「私がマーケティングの父ならば、祖父はドラッカーである(「P.F.ドラッカー 理想企業を求めて」より抜粋)」と述べているように、P.F.ドラッカー氏も数多くの関連著作を残しています。

そこで、私がドラッカリアンなこともありますが、氏の著作の一文を拝借して、マーケティングの定義を考えます。

マーケティングとは、企業の成果すなわち、顧客の観点から見た企業そのものである。(略)理想は、直ぐにでも買いたくなるようにすることである。(略)顧客は製品を買っていない。欲求の充足を買っている。
「マネジメント:課題、責任、実践」

まず、マーケティングとは広告だけではありません。企業そのもの、という翻訳が物事をややこしくしていますが、原著では「the whole business」とありますから、「仕事の全て」と表現しても良いと思います。

すなわち、プロダクトのUIやデザインだけでなく、入力間違いによるエラーメッセージ1つをとっても、全てはマーケティングだとドラッカーは言います。そんなバカなと思うかもしれません。ですが、apple社のiphoneを思い浮かべて下さい。携帯そのものが製品ではなく、梱包する箱ですら製品であり、その妥協しない姿勢にapple社らしさが現れています。

 

次に、何故そのようなことをするかと言えば、買って貰うためです。当たり前のことを言っていますが、売るためではないことに注目して下さい。つまり、売る努力をしなくても、顧客が買いたいと思うためにマーケティングが行われます。

例えば、その良い例が「恵方巻」です。特定の方角に向かって黙って食べると、その1年は良いことがあると言われています。なぜこんなに広がったのかと言えば、大阪の海苔組合が「どうすればもっと海苔が売れるか?」を考えたからです(起源は諸説ありますが、恵方巻きは元々、山崎豊子女史の小説でも有名な船場界隈の独自文化だと私は聞かされて育ちました)。

このほか、私が子供のころには無かったハロウィンも同様ですね。いつの間にか、ハロウィンはみな被り物をかぶってワイワイやるようになりました。

だからこそ、顧客は「欲求の充足」を買っているとされるのです。顧客は電話を買っているでしょうか? いや、iphoneという体験を買っています。顧客はお寿司を買っているでしょうか? いや、縁起という満足を買っています。

 

つまり、マーケティングとは、「欲するであろう顧客に対して」「欲するであろう瞬間」「欲したくなるメッセージを送ること全て」を指すと私は考えています。

デジタルマーケティングとは何か

では、デジタルマーケティングとは何を指すのでしょうか。

デジタルの対義語であるアナログを考えれば、技術的に新しいマーケティングをデジタルマーケティングと言う、という考え方もあるかと思います。

 

当日投影した資料より抜粋

 

しかし、発生時期に新しい古いはあれど、手法が古い(=通用しない)というのは、ついぞ聞いたことがありませんから、この考えは眉唾でしょう。

ちなみに、マーケティングを場所(欲するであろう瞬間)と手法(送るメッセージ)で方眼すると、以下の図のようになるかと私は考えていますが、デジタルマーケティングはどこにあたるでしょうか。

 

当日投影した資料より抜粋

 

私が考えるに、デジタルマーケティングとは、例えばデジタル家電やデジタル時計のような、デジタルデータを扱うプロダクトの冠に「デジタル○○」と付くように、デジタルデータを用いたマーケティングを指すのではないでしょうか。

デジタルデータとは、全てを0と1で表現するデータであり、何度でも再現することができることが特徴です。これに対比されるのが「アナログデータ」です。よく言われるのが紙ですね。例えば、オープンデータの領域(参照:今年流行間違いなし!?今のうちに知っておきたい「オープンデータ」について簡単に纏めてみた)では、再加工し易いようデータは全てCSV形式で提供することが求められています。

つまりデジタルデータとして提出して下さい、というのが世界の潮流です。紙しか無いのは言語同断だし、紙をPDF化したものも手厳しく批判されます。いくら紙をデジタル化しても、それはデータにはならないからです。

 

周囲を見渡せば、今、あらゆるデータは「デジタル化」しています。その日の天気は気象庁が公開するAPIを使って地域毎に取得することが可能になり、ある人の症状は電子カルテがあれば遠く離れた診療所でも診断が可能になり、名刺はクラウドで管理されいつでも共有が可能になり、ウェアラブル端末で自分の健康状態を把握することが可能になりました。

もはや、デジタルデータは社会基盤であり、インフラであると言って過言ではありません

そして、デジタルマーケティングとはそうしたデジタルデータを活用したマーケティングであると私は考えています。そこに、オフラインかオンラインか、ダイレクトかマスか、これを問うても意味はないでしょうか。切る観点が違うと思っています。

当日投影した資料より抜粋

殆どの顧客は、自らがオフラインにいること、オンラインにいることを意識して行動してはいません。オフ会という言葉は、もはや「死語」です。

この2つの領域を行き来する顧客に対して何ができるのか。例えばオンライン領域での活動履歴に対してオフライン領域で活用できるクーポンが発行される等の事例も出始めています。そこで活躍しているのがデジタルデータです。領域の様々な活動履歴がデジタルデータ化している現在、そのデータを使ったマーケティングが求められています。

2015年以降のデジタルマーケティング

朝、村井教授(基調講演は慶応義塾大学の村井純教授でした。基調講演の内容はコチラ)から話がありましたが、昨今流行りの「IoT(Internet Of Things)」は、最初は意味が今とは違っていました。

様々なモノは製造後、倉庫、小売と様々なネットワークを経て、顧客へと渡って行きます。その過程にある流通ネットワーク、顧客ネットワークは域が全く違いますから、実態は同じなのに違うモノとして別で扱われてしまいます。そこで、もしそれらをユニークに把握できるためのIDをモノに付与すれば、そしてそれらをデジタルデータ化すれば、モノ自体がネットワークする、というものでした。だから「internet of things」なのです。

もしそれが実現すれば、物流含め大きなイノベーションが実現するかもしれません。例えば3Dプリンタがあれば、デジタルデータからモノの消費期限が解ってユーザーに対しアラートが投げられ、買いに行かなくてもプリンタが自動的に印刷(ダウンロード)してくれるという未来も有り得ます。

そうなれば多くの雑貨は買うものではなくダウンロードするものという認識に改める日が来るかもしれません。その時、ダウンロードされたモノに個体識別番号としてIDが付与されれば、製造責任等の問題はクリアされる可能性があります。そのIDがあればユーザーに対して広告が配信できるというのは、あくまで副産物ですね。

 

このような未来を支えるのに欠かせないのはデジタルデータなんです。購入時期、リプレイスタイミング、購入者属性、それらが全てデジタルデータ化されていることで、売ること無く買って貰う「マーケティング」を推進することができます。

日経BigDataなんかを読むと、記事の大半はWEB関連外です。が、扱っているデータはデジタルデータであり、オンライン・オフライン領域双方の事業KPI達成のための創意工夫に関して描かれています。

また、オンライン領域といっても、もはやブラウザ経由のインターネットのみを指しません。テレビはインターネットに繋がり、PC、スマホに続く第3のデバイスとして米国では成長を始めています。と言っても、テレビでWEBサイトを見るのではありません。ドラマやバラエティを見た視聴ログもまたデジタルデータの1つであり、インターネットを経由して集積され始めています。その記録をもとに「どのドラマを作れば当たるのか?」という予測モデルを作成している制作会社が米国にあります。

 

一番始めに私が「デジタルマーケティングに成功するか否かが、プロダクトの生死を左右するとさえ思う」と皆さんに伝えた理由、ここまで話すと伝わったかなぁ、と考えます。

WEBに限らないデジタルデータを活用することは、すなわち、今までアナログで取り扱えなかったデータを揃えることであり、分析できるようにすることでもあります。

2015年はまだ始まったばかりです。この新しい年において、デジタルマーケティングは「IoT」のトレンドを受けて大きく変化していくと思いますし、私自身がそれを肌感覚として実感しています。テレビ、新聞のみならず、最近は天気を含めた分析なんかもやっています。

だからこそ皆さん、一緒に「デジタルマーケティング」をはじめてみませんか。今までに無い、新しい、そして刺激的な世界が、開けると私は思っています。

 

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