日本で定額制音楽配信サービスは定着するか?

松本 健太郎

 

通勤中はradikoでFM802を聞いている所長にとって音楽は欠かせない存在です。もうすぐ春のキャンペーンソングの季節ですね。2017年は清水翔太!

最近では「AWAが良いらしい」と聞いてDLしてから定額制音楽配信サービスの良さに気付いて、音楽に塗れた日々を過ごしています。

 

ところで定額制サービスと言えば、2016年9月にSpotifyが日本に上陸して以降、本格的な定額制音楽配信サービスの時代が押し寄せると言われています。

しかし、あらゆる業種において「デジタルへの転換」の遅れが目立つ日本で果たしてそんなことが本当に起こるのでしょうか。調べてみました。

結論としては以下の通りです。

1.世界的に見て音楽市場は2015年に下げ止まり。成長を牽引しているのはDigital(特に定額制音楽配信サービス)。
2.一方で日本ではPhysicalが強くDigitalは立ち上がっている最中にある。
3.音楽を聴く世代の「創造」が鍵。PhysicalでやってたことをDigitalでやれば良いという話では無さそう。
 

 

世界はこんな感じになっているようです

世界各国にある音楽産業団体を束ねる国際レコード産業連盟(IFPI)という機関があります。

この機関が毎年公開しているレポートに世界的な音楽の売上や傾向が発表されているので、これを参考にしながら世界の情勢を見てみましょう。

 

2015年は1998年以来の大幅なプラス成長(前年比)の年でした。同時にDigitalがPhysical(実物)を追い抜いた年でもありました。

 


 

2000年代前半は海賊版に市場が食われてPhysicalが急激に縮小していったのではないでしょうか。しかも海賊版だからDigitalにも形状されない。

それにしても、この10年でPhysical市場が179億$から58億$へ3分の1になるとか洒落にならんですね。地獄です。

 

伸びているDigital市場ですが、その内訳はストリーミング方式とダウンロード方式に二分されています。

ストリーミング売上が29億$でDigitalの43%を、ダウンロード売上が30億$でDigitalの45%を占めています。

かつストリーミング売上は前年比45.2%増と急成長を続けており、恐らく2016年には逆転しているでしょう。

 

さて、では国別の傾向を見てみます。

 


 

圧倒的1位のアメリカ、次いで日本、そしてイギリス、ドイツ、フランスと続きます。アメリカはDigitalが市場の66%を占め、かつストリーミング売上が最大のシェアを占めるようです。

並び方を変えてみました。

 


 

アメリカすげーな

アメリカの市場規模があまりに大きいので、ちょっと他の国の構成比が分かりづらいですよね。100%積み上げ棒グラフで表現してみました。

 


 

実はアメリカ以上にデジタル化が激しいのは中国のようです。

一方で日本はPhysicalの比率が高い。それはドイツも同様です。こうした数字をもとに「日本とドイツは市場環境が似ている」という発言もチラホラ聞こえてきます(もちろんこれだけでは無いと思いますが)。

 

さて、ここで思い浮かぶのは「アメリカが世界最大の市場なのは人口が多いからだろう」というツッコミです。

そこで、「全世界で共通して音楽が好きな気持ちは同じ」だと仮定した場合に、人口1人あたり換算の音楽売上を算出してみました。

 


 

ブラジル、中国、アルゼンチン、メキシコがPhysical、Digitalともに圧倒的に低いですが、これらの国は模倣品や海賊版で悪評が高い市場です。

公益財団法人日本関税協会によると、USTRから「悪評の高い市場」と非難を浴びていました。公的なオープンデータに照らしてもそうなっているようで、そうなのでしょう。

模倣品・海賊版の販売等で悪評の高いマーケットのリストを公表(USTR)
http://www.kanzei.or.jp/topic/international/2015/for20150401_1.htm

 

スウェーデン、ノルウェーのDigitalが高いですが、これらの国はSpotifyの牙城ですからね。まぁ、そうなるでしょう。

Physicalを見ると日本が圧倒的に高いようです。もしかしたら、日本の音楽の値段は他国相場と比べて割高なのかもしれません。

誰ですか、握手件効果で購入頻度が高いだけとか言っているのは。このデータだけでは分からないので次は日本のPhysical市場を見てみましょう。

 

世界の中の日本のPhysical情勢

日本の音楽市場については一般社団法人日本レコード協会がかなり丁寧にまとめておられます。こちらのデータを参考にしながら話を進めていきます。

ホーム > 発行物 > 日本のレコード産業
http://www.riaj.or.jp/f/issue/industry/

 

まず、私が誕生した1984年が12cmのCDの売上を計上し始めた年のようなので、この年を基準にそれまでの音楽ソフトの売上推移をグラフにしてみました。

 


 

1984年から約15年かけて市場が2倍に膨らみ、そこから約15年かけて市場が半分に萎んでいます。

実は遡って1979年までは市場規模は約3000億で推移しており、むしろ1990年代が異常だったという見方もできます。

ただし、これは世界的に見てもその傾向にあって、1990年代は爆発的な市場拡大が続いていました。したがって、日本だけでなく世界的に見て「1990年代は音楽の時代だった」と言えなくもないかもしれません。

ちなみに、今度は販売枚数とその年に登場した新譜数をグラフ化してみます。SMAP解散騒動に合わせて十数年後に曲が売れるということもありますが、基本的には連動しているだろうという見方で問題ないかと思います。

 


 

あくまで基準値ですが、新譜あたりの枚数で割ってみます。

 


 

およそ2002年をピークに下降し続けていることが分かります。

こちらのサイトで歴代シングル売上ランキングが掲載されていました。見て分かる通り、TOP2を除いて1990年代、および2003年までがズラリと並びます。

 

既に2008年にはシングルのミリオンヒットが登場しないほど市場自体は落ち込んでいました。2010年にようやくAKB48のBeginnerがミリオン到達しますが、それはむしろ喜ばしいことなのではないでしょうか。

この10年間に何があったのでしょうか。DigitalはここまでPhysicalを壊したのでしょうか。

 

音楽を日常的に聴く行動は特定年代でしか発生しない説を考える

ここで私は1つの仮説を立てました。

「音楽を”日常的に聴く”という行動は特定年代でしか発生しない。それは若者である。ちょうど2000年頃からDigitalの世界に海賊版が登場し、悪貨が良貨を駆逐した。デジタルネイティブである若者はタダで聞ける音楽をシェアする文化に慣れた。加えて少子化により一段と市場が小さくなった」という可能性は考えられないでしょうか。

2015年度 音楽メディアユーザー実態調査
http://www.riaj.or.jp/f/pdf/report/mediauser/softuser2015.pdf

 

この資料によれば、大学生をピークに20代社会人、30代社会人…と音楽と距離が生まれ始めます

大学生で無関心層は10%程度ですが、30代社会人は30%、40代は40%と年を重ねるごとに音楽は「お金を払う対象でもないし、積極的に触れる存在」でも無くなります。

 

そこで、総務省の家計調査をちょっと覗いてみました。「音楽を日常的に聴く≒定期的に買う」世帯はどれくらい減ったのでしょうか。

音楽を買ったことが分かる品目データ(「音楽・映像収録済メディア」のこと。2004年以前は「オーディオ・ビデオディスク」と「オーディオ・ビデオ収録済テープ」の合算)を含む時系列長期データは2003年以降(購入頻度に関しては2005年以降)だったので、このデータを参考にしてみます。

品目分類別かつ年齢階級別の結果、100世帯あたりの購入頻度と支出金額は以下の通りです。

 


 

全体的に支出金額だけでなく、購入頻度も減っていました…

少子化による影響だったとしても、購入頻度は横ばいであるはずなので「大学生~20代の数が減っている説」は不採用です。

ただし家計調査における「音楽・映像収録済メディア」とは、CDやDVDを指すので、いまどきの若者は握手券付いていないPhysical買わんやろ!Digitalに流れた説は有効!と考え直すことにしました。

都合の良い解釈とか言わないで下さい。

 

定額制音楽配信サービスは成功するのか

音楽を”日常的に聴く”若者はPhysicalではなくDigitalに向かっていると考えて、売上がどれくらい伸びているのかを見てみました。

できるだけ細かいデータが良かったので探してみたところ、四半期毎になっておりました。

デジタル売上の中でも定額制とそれ以外に分けてみてみると、一般社団法人日本レコード協会が四半期毎の数字を発表していたので、その数字を用います。

月を追うごとにサブスクリプションの割合が増え、売上も上昇しています。2015年第4四半期に一気に増えているのはAWAのリリースの影響かと思われます。

 


 

この傾向でいけば、オリンピックの頃には、どうなるんでしょう。この数字から、この先どうなるかを超ざっくり予測してみました。

モデルAは市場の誕生から現状までをベースにしたもの、モデルBは日本で本格的な定額制音楽配信サービスアプリ誕生後をベースにしたものです。

 


 

モデルA:2013年第1四半期を基準に四半期毎×約3.5億+(-2.6億)
モデルB:2015年第3四半期を基準に四半期毎×約4.3億+30億

 

パターンAの場合は2019年の1年間で約360億、パターンBの場合は約410億と、2016年時点の市場規模の1.5倍~2倍になるのではないか?と推察します。

ちなみに2019年約400億の市場規模は、日本の音楽市場が2015年で約2500億ですから、この先4年間大きく変動が無いと仮定すると市場全体の約15%を占めます。

ちなみに、日本の市場に似ていると言われるドイツは、2015年時点で定額制音楽配信サービスの音楽市場内シェアが約11%と、立ち上がりは確かに似てるなぁと感じます。

 

まとめ

たしかにPhysicalとDigitalの関係性だけで見れば、ドイツと日本は似ていますね。

定額制音楽配信サービスの市場の立ち上がりにしても、オリンピックの頃には今のドイツぐらいの市場規模にはなっていそうです。

ただし外面は似ていますが、あくまで時系列的に今の勢いが続けば…という前提に立った上になります。

音楽をYoutube(≒無料)で聞くことに慣れた世代が音楽に課金するという行為をどれぐらい抵抗なく受け入れてくれるかは謎です

そもそも、音楽を買う≒10代~20代だと考えると、10代のうちに自分の持っているスマホで課金するという行為を親御さんにどこまで許されているかも気になるところです。

皆にとって必要なサービスであるほど、所有率は累乗関数曲線のように急激にググッと伸びるのだと思いますが、少なくとも今のところはそんな傾向も無く…。

 

言い換えれば、日本における定額制音楽配信サービスは、デジタルという手段を用いて音楽を聴くという市場の創造なのかもしれません

しかも音楽を聴くメディアは無料と思っている世代を開拓するということは、PhysicalでやっていたことをDigitalに置き換えれば済むという話では無いと考えます。まさに市場の「創造」ではなかろうかと思う次第です。

参考文献

音楽産業のビジネスモデル研究会報告書
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/downloadfiles/music_buisiness.pdf