究極指標「WAR」を使って給料の安いプロ野球団を分析してみた


今回は、大好評に続き第2弾!セイバーメトリクスです。

 

年功序列関係なく、打って走って守れる選手が活躍するプロ野球は「実力主義」の世界だと言われています。

スターティングメンバ―として出場して活躍する機会が多いほど、給料は上がります。南海ホークスの監督を勤めた鶴岡一人氏は「グラウンドにはゼニが落ちている」と表現したほどです。

ただ、どのグラウンドにもまんべんなく「ゼニ」が落ちているとは思えません。同じ業界でも、企業規模に応じて初任給もボーナス額も違う、というのはよくある話です。同じ成績を残しても、球団によってグラウンドに落ちている「ゼニ」の額は違うのではないか、という仮説を私はもっています。

良い成績を残したのに年収が思ったより増えないプロ野球選手が、契約更新後に他球団の動向をネットでチェックしていて「ちくしょう!転職(FA)だ!」と叫んでいるかもしれません。

というわけで今回は私の仮説は当たっているのか、どの球団から叫び声が上がっていそうかを分析します。

 

プロ野球選手の成績を総合的に評価することはできるのか?

成績と年収が比例しているかを分析する前に、まず、どの成績と比較すればいいかを考えます。

打点だとすれば投手が不利ですし、勝利投手権利は野手に無縁です。あらゆるメトリクスで重回帰分析をするにしても、説明変数が多過ぎる気がします。

走攻守投の能力をシンプルに1つの数字で表現できないものか。

調べてみたところ、「WAR」(Wins Above Replacement:勝利数代替水準対比)というメトリクスがメジャーリーグで親しまれていることを知りました。

 

WARとは、走攻守投の貢献度を総合的に評価する指標です。「代替」という名前の通り、故障などで試合に出られない場合に出場する代替の選手と比較して、どれだけチームの勝利数を増やしたかを表します。

例えば、ある選手のWARが「3.0」だった場合、その選手が出場する場合と、代替の平均的な選手が出場する場合とを比較すると、前者のほうがチームの勝利数は3つ増えることを表しています。

ちなみに2014年のWARランキングTOP10は以下の通りです。

図:2014年WARランキング(セイバー・メトリクスリポート Vol.4参照)

 

WARはヒトケタ台の数字だと思ってください。過去3年間で最も高い数字は、阿部選手(巨人)が2012年に叩き出した「9.7」でした。阿部選手が試合に出るだけで約10勝分の価値があるということです。そりゃ、巨人が三連覇するわけです。

 

WARを用いることの最大のメリットは、シンプルに1つの数字のみで選手の貢献を把握できることです。代替の平均的な選手との比較という考え方に立っているので、野手と投手を比較することもできます。

この意味で、究極の評価指標とも言われています。

デメリットとしては2つあります。1つは、代替の平均的な選手との比較なので、WARの値がマイナスになることもあります。「チームの勝利数がマイナス2つ増える(=2つ減る)」というのは論理的に考えると少し違和感を覚えるところがあります。

もう1つは正式な決まった計算式が無いことです。アメリカの各研究機関でも、独自にチューニングした計算式に基づいてWARを算出しているため、発表元によって数字が微妙に異なることがあります。それだけ発展中の指標だということです。

 

そこで、「セイバー・メトリクスリポート」に記載されているWAR(2012年~2014年分)を「正」として、WARと年収が比例しているかを分析してみたいと思います。

また今回の記事は、WARの詳細な内容を明らかにすることではなく、成績に連動して年収が増えているかを明らかにすることなので、WARを算出する計算式は割愛します。WARを用いれば、たった1つの数字のみで選手の成績を表現できる、という前提で話を進めます。

成績(WAR)と年収は比例しているのか?

まずは、各プロ野球選手の2014年におけるWARと2015年における年収を散布図で表現します。

さらに、散布図に回帰直線を引いてみます。2014年のWARを説明変数(原因)、2015年の年収を目的変数(結果)とします。

 

ちなみに対象になるのは2年目以降の選手かつ1軍の試合に出場した選手、571人です。1年目の選手(例えばルーキーや新人外国人選手)や2015年に日本プロ野球に復活した選手(例えば広島の黒田選手)は対象外です。

結果は以下の通りです。

図:2014年WARと2015年年収の散布図+回帰直線

 

WARは0を中心にして右に広がり、右に行くほど年収が上がっていることが解ります。相関係数は0.56と、それほど悪くはありません。また単回帰分析の結果、2015年の年収は、2014年のWARが1増える毎に2965万増えることが解りました。

 

ただし、表を見てみると、WARが高いほど回帰直線との残差(二変量の観測値と回帰式の距離)は広がるばかりに見えます。

一番残差が高かった巨人の阿部選手(2014年WAR:2.9、2015年年収:51,000万)や、最も高いWARを残したヤクルトの山田選手(2014年WAR:7.9、2015年年収:8,000万)などが良い例です。

図:残差がどうも気になります…

 

その理由として考えられるのは、1年間活躍したぐらいで年収は劇的に増えないし、1年間活躍できなかったぐらいで年収は劇的に減らないということです。

「プロ野球は全てにおいて実力主義」という大前提を疑ってかかる必要があると思われます。

 

そこで、勤続年数や年齢に応じてポジションはゲットできない(=実力主義的要素)、ただし活躍年数に応じて年収の増減が決まっている(=年功序列的要素)という仮説をここで立ててみます。

つまり2015年時点の年収は、過去の成績(WAR)の積み重ねで成り立っていると考えるのです。

 

試しに、各プロ野球選手の2013年と2014年の2年間のWAR平均と2015年における年収を散布図で表現してみます。

図:2013年~2014年の2年間WAR平均と2015年年収の散布図+回帰直線

 

さきほどの散布図と違い、まとまりがあります。相関係数は0.67と、一気に上がりました。

また単回帰分析の結果、2015年の年収は、2013年と2014年の2年間のWAR平均が1増える毎に3831万増えることが解りました。

説明変数であるWARの傾きの値も増えています。

ということは「説明変数であるWARで年収が説明できるモデル」に近付いているということです。もし傾きの値が0であれば、説明できていると言えないからです。この事実は、WARで年収を説明するには良い事実だと考えます。

 

さらに、各プロ野球選手の2012年〜2014年の3年間のWAR平均と2015年における年収を散布図で表現してみます。

図:2012年~2014年の2年間WAR平均と2015年年収の散布図+回帰直線

 

さらにまとまりのある散布図となりました。相関係数は0.71と、一般的に言えば「強い相関」が現れました。

また単回帰分析の結果、2015年の年収は、2012年〜2014年の3年間のWAR平均が1増える毎に4180万増えることが解りました。傾きの値がさらに大きくなっています。「年収が過去の成績(WAR)で説明できるモデル」により近付いたと言ってもいいのではないでしょうか。

 

手元にあるWARが3年分しか無いので、これ以降を算出することはできませんでした。ただ、これまでの事実を踏まえて、時点tの年収は、T-1、T-2…Tiの成績(WAR)によって決まる、と言い切れると考えてよさそうです。

グランドに落ちているゼニの量は違うか?

「T時点の年収はi年分の成績で決まる」モデル(今回のデータはi=3)を見ると、残差が大きい選手が少なからずいます。

巨人の阿部選手(2012年~2014年平均WAR:7、2015年年収:51,000万)はかなり上振れていますし、中日の大島選手(2012年~2014年平均WAR:5.4、2015年年収:7,400万)はかなり下振れています。

この残差を、先述したような「同じ業界でも企業規模に応じて初任給もボーナス額も違う」という仮説で説明できないでしょうか。そもそも残差とは「傾向」に現れていないものを指すものです。

つまり「モデル」と「現実」との残差を、所属する球団のバイアスと見るのです。

例えば球界の盟主・巨人ともなると伸しかかる重圧が半端無いはずですから、残差を合算するとプラスになるかもしれません。有名税というやつです。落合GMになった中日は他の球団に比べて昇給が渋くなっていて、モデルと比べて残差を合算するとマイナスになるかもしれません。構造改革というやつです。

 

そこで球団単位で12球団平均との残差を集計してみました。その結果が以下の通りです。

図:「モデル」の残差を球団単位に集約した結果

 

見事に球団単位で「偏り」が現れました。この「偏り」が、同じ努力をしても球団によって異なる評価金額を表している、と言ってもいいのではないでしょうか。

個別に見ていきましょう。

グラウンドに落ちているゼニの量が圧倒的に高いのは巨人、ソフトバンクでした。思っていた通りの結果です。地元の熱狂度合いが最も高いと想像される阪神が3位でした。このあたりはマスコミ対策料込みなのかもしれません。

意外なのはオリックスが4位になったことです。地元・関西では阪神の影に隠れていますが、意外と良い就職先かもしれません。あるいは、2015年優勝に向けてガムシャラに補強したことも影響したかもしれません。

さもありなんと言えるのが広島カープです。お金が無いことは知られていますが、12球団全体と比較して、ここまでしぶちんとは思いませんでした。そんな広島カープに出戻った黒田選手の男気は数値では測れません。

ただし、このランキングが現在の勝ち星数にそのまま直結しているかと言えば違います。現在首位を走る北海道日本ハムや横浜DeNAは、いかに高コスパ運営をしているかが解ります。一方、我らが阪神は…。

まとめ

プロを目指す選手が就職(FAで転職)するならお金の面でオススメなのは巨人、ソフトバンク、阪神、オリックス、ということです。そして、「ちくしょう!転職だ!」という叫び声は、広島、横浜DeNA、北海道日本ハムあたりから聞こえてきそうだということが解りました。

特に北海道日本ハムは、年収が上がりそうな選手をトレードやFAで放出しては、ドラフトで良い選手を発掘し高コスパ選手に仕上げているイメージがあります。球団内にセイバーメトリクスを扱う専門部署があるそうなので、そこが色々と仕込んでいるのだと思われます。

もっとも、入団したい球団を金だけで選べるわけもなく、子供の頃からの憧れもあるでしょうから、「むしろ俺が入団して歴史を変えてやる」ぐらいの意気込みを持つべきなのかもしれません。

ちなみに、私たちのようなプロ野球選手で無い一般市民が「ちくしょう!転職だ!」と思ったときは、迷わずIT/Web業界の求人・採用情報に強い転職サイトGreenに登録しましょう。

<参考文献>
セイバー・メトリクスリポートVol.2:こちら
セイバー・メトリクスリポートVol.3:こちら
セイバー・メトリクスリポートVol.4:こちら
メジャーリーグの数理科学(上下):こちら

 

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