時代は本当に回るのか?首相の所信表明演説をテキストマイニングする

松本 健太郎

 

今回は「KHCoder」というテキスト型データを統計的に分析するフリーのソフトウェアを使って、テキストマイニングに挑戦します。いわば「KHCoder」を使った事例です。

 

膨大な量のテキスト型データとして、歴代首相の所信表明演説を用意することにしました。

中島みゆきは「時代はまわる、喜び悲しみ繰り返し」と唄いました。

もし時代はまわり、歴史は繰り返されるなら、きっと為政者の言葉だって、時代を超えて似通っているに違いありません。そのことを検証してみたいと思います。

 

そもそも所信表明演説とは?

国会が始まると行われる首相の演説に、施政方針演説と所信表明演説の2種類があります。

簡単に言ってしまうと、施政方針演説は毎年1月に召集される通常国会の開会式で首相が今後1年間の内閣の基本方針を示す演説、所信表明演説は臨時国会や特別国会の冒頭に首相が自らの所信(信念)を述べる演説です。

施政方針演説は第1回帝国議会で山県有朋首相が行って以来、通常国会開会時の慣例として行われています。ちなみにアメリカでも同様の時期に「一般教書演説」として施政方針演説が行われています。

一方、所信表明演説は1953年に吉田茂首相が「そこまで大げさな演説ではない」というニュアンスで「政府の所信表明」という言葉を使ったのが始まりで、それ以降に「所信表明演説」という言葉が定着しています。

 

施政方針演説は内閣としての方向性を示す演説、所信表明演説は政治家としての心構えを発表する演説と言っても良いかもしれません。

したがって美辞麗句と各省庁のお願い事項が並ぶ施政方針演説とは違い、所信表明演説は首相になった政治家としての「想い」が込められていると言われています。

もし、その「想い」を時代を超えて違う首相が口にしているとしたら、それは時代がまわっても繰り返される普遍的な価値と見なせないでしょうか。

 

今回は、1960年の池田勇人首相所信表明演説から2013年の安倍晋三首相所信表明演説を対象としました。また、その内閣発足時の最初の所信表明演説を分析の対象としています。

ちなみに「時代が違っても言葉も想いも繰り返す」ことを研究するので、1年に2回初めての所信表明演説が繰り返される事例は片方を対象外としました。具体的には1989年宇野宗佑首相、1994年羽田孜首相各所信表明演説です。

したがって24本の演説、約16万字が対象となります。

 

どの総理も言っている言葉で普遍的演説を作ってみる

約16万字の演説の中で、多く登場した単語TOP5を「KHCoder」を使って調べてみました。その結果は以下の通りです。

 

出現回数が多い単語TOP5
出現回数が多い単語TOP5

 

群を抜いて多かったのは「国民」「経済」でした。

私の尊敬する政治学者のハンナ・アーレントは、政治を「自己とは異なる他者に対して言語を使って働きかけ結合する行為」と表現しています。首相が語りかける相手として最も適当なのは「国民」ですし、その内容は「経済」ということでしょうか。

 

続いて、歴代首相が必ず口にしている単語を「KHCoder」を使って調べてみました。

1960年から2013年までどの首相も必ず1回は口にしているということは、何より時代を超えた普遍的な意味があることを指していると思います。その結果は以下の通りです。

 

全ての首相が言及した単語
全ての首相が言及した単語

 

今を生きる皆さんが見ても「あぁ、なるほど」と頷きそうな単語のオンパレードですね。おそらくタイムマシンで60年前にタイムスリップしても、同じような反応が返ってくるでしょう。

そこで、この18単語を使って”普遍的演説”の模範解答例をつくってみました。

 

わが国の経済が抱える諸問題に対して、政府として可及的速やかな対策を実施いたします。必ずや日本経済のダイナミズムを取り戻し、安定的な経済成長を実現してまいります。国民の皆様からのご理解を賜りたいと存じます。
また日米関係は、世界の平和を希求するなかで重要な役割を担っていると考えております。国際社会から信頼される最も重要な二国間関係を私の内閣でも引き継ぎ、アジアの一員としての責任を果たしていきたいと考えております。

 

普遍的過ぎて、逆に胡散臭いですね。発信力が強いどこかの大阪の元政治家さんからtwitterで「言うだけなら誰でもできるんだよ」と罵倒されそうです。

 

「関連語検索」で重要政策を明らかにする

所信表明演説には、総理が訴えたい想いが必ず込められており、それは時に”頻出語”として顔を覗かせます。

そこで「KHCoder」を使って、各演説をすべて検索した上で、全体と比べて高い確率で出現する単語をリスト化してみました。すなわち、その時代、その首相が大事だと考えて繰り返し口にした単語の洗い出しです。

自身の内閣だけでなく、他の内閣でも高い確率で出現する単語は赤枠・赤字で表現しました。その結果は以下の通りです。

 

数値はJaccardの類似性速度
数値はJaccardの類似性速度

 

意外と赤枠・赤字が多く現れましたね。非自民政権の首相も赤枠・赤字が少なからず占めており、政党が違っても政治家としての信念に共通する部分があるのだな、と感じ入るものがあります。

 

個別具体的に見てみましょう。

その時代だけで強調して語られている単語の代表例として、1972年田中内閣の日中国交正常化、1993年細川内閣の政治改革への決意、1998年小渕内閣の金融危機、2008年麻生内閣の民主党へのイチャモン、2011年の野田内閣の東日本大震災への対応が挙げられます。

一方で殆どの所信表明演説で、最頻度に出てくる単語が実は他の内閣でも言及されている点は見逃せません。例えば小泉内閣の看板だった「構造改革」も「改革」も、それぞれ森首相、海部首相・橋本首相がすでに言及しています。

前内閣と言っていることが違っては困るとして内閣の連続性を担保しようとする一方で、その政権の独自性を発揮しようとする官僚の腐心が見え隠れします。

 

「共起キーワード」で時代を超えた繋がりを明らかにする

どの内閣でも似通った単語を使っていることが分かったところで、さらに突っ込んで分析を進めます。

「KHCoder」を使って出現パターンの似通った語、すなわち共起の程度が強い語を線で結ぶネットワーク図を作成します。

首相と単語を線で紐付けるようにしているので、例えば◯◯と言えば△△首相となるような見え方になります。もし◯◯という単語が、△△首相と××首相の両方に紐付いているなら、それはまさに「時代」が回っていることを表すと考えます。

その結果は以下の通りです。

 

最小出現数50、Jaccard係数0.6以上に限定
最小出現数50、Jaccard係数0.6以上に限定

 

いくつかの単語が、時代を超えて複数の首相の所信表明演説に紐付きました

例えば「行政」という言葉で1980年鈴木首相と1996年橋本首相が結び付いています。鈴木首相と言えば「増税なき財政再建」として行政改革に着手したことで有名ですが、党側の実務責任者として橋本氏が対応に当たっていたことはあまり知られていません。

他にも「財政」という言葉で1979年大平首相と2010年菅首相が結び付いています。どちらも大蔵大臣を経験し国家財政の行く末を心配していました。ちなみに、どちらも消費税を政策軸として戦い選挙に敗れたという共通点を持っています。

さらに「国民」という言葉で2008年麻生首相と2009年鳩山首相が結び付いています。どちらも国民に「俺たちに日本を任せてくれ」と訴えかけていたわけですが、その結果はご覧の通りです。

 

為政者の言葉というのは往々にして、今できていないものが登場します。

豊かさに満たされた現代国家において「豊かさを追求する」と言っても「はぁ?」という反応が返ってくるだけだからです。できていないから語りかけるし、国民は耳を傾けるわけです。

すなわち、今の国に足りないもの、或いは為政者自身に足りないものを補うものとして「言葉」を使うわけです。

その意味で非自民政権である1993年細川首相、1994年村山首相、2009年鳩山首相が「政治」に紐付くのは、彼らが日本における政治の代名詞である自民党を主とした政権でないことの裏返しだと考えます。

さらにハト派である1991年宮澤首相、社会党政権だった1994年村山首相にのみ「平和」という言葉が紐付くのも、彼らがいかにそれを望んでいた(そして手に入れられなかった)かが分かります。

 

まとめ

時代が回っても変わらない普遍的な言葉があることがテキストマイニングをすることで伺い知ることができました。

 

印象に残ったのは、「福祉」など登場回数の減った言葉です。すなわち繰り返し言い続けることで問題として認知され、問題として対応が始まった政策課題なのだと思います。

時代は回っても、螺旋階段のように少しずつ進化しながら回り続ける…そのことを信じずにはいられません。

以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。