体系立てたプロセスでインサイトが発見できるという衝撃の1冊「「欲しい」の本質」

松本 健太郎

 

今回は2017年12月に刊行された「「欲しい」の本質」を紹介します。

著者の1人である大松さんから献本いただきました。ありがとうございます。

 

 

ちなみに、大松さんには以前にマメ研としてインタビューをさせて頂く機会がありました。約1年ほど前ですが、今読んでも新鮮な内容だと個人的に自負しております。

 

モノが売れない時代。「インサイト」の考え方が私たちのマーケティングを変える
https://www.mm-lab.jp/interview/insight_thinking_changes_our_marketing/

 

今回は、本書を読んで得られた3つの「気付き」をご紹介したいと思います。

 

インサイトは天才にだけ舞い降りるのではない

インサイトの定義については先ほど紹介したコンテンツを読んで頂くとして、本書の帯では次のように取り上げています。

・本人も気付いていない欲求のスイッチ
・ヒット商品を生み出す武器
・停滞している状況にイノベーション(革新)を起こす
etc.(書店で確認して下さい)

要は、インサイトとは「今までに見た機会が無いけれど、ほらコレが欲しかっただろ?と差し出されると思わず”そうそう”と言ってしまう価値」だと私は捉えています。

例えば馬車全盛の時代に「何が欲しいか?」と問われれば、誰もが「もっと早い馬車」と答えるでしょう。「車」「鉄道」という答えは、それを認識して以降に登場するはずです。この逸話は、自動車王ヘンリー・フォードの類稀なる実績とともによく紹介されますね。

消費者が、必ずしも自分の欲しいモノを知っているとは限らないのです。しかし、何をしたいかは知っています。その差を埋めるブロック塀が「インサイト」ではないでしょうか。

「性能」「カメラ」「音楽」など機能で差を付けていた携帯電話全盛の時代を、本著では「だいたい良いんじゃないですか?」という成熟時代だと定義しています。消費者の欲しいモノが無くて、製品だけ進化し続けているような状況だと言っても良いかもしれません。

しかし、それではイノベーションも起こらず成熟から衰退に向かうだけです。

スティーブ・ジョブズはそうした風潮に立ち向かい、「電話を再発明する」という名言と共にiPhoneを発表しました。以降の歴史は誰もがご存知の通りです。

 

では、こうしたインサイトの発見は、フォードやジョブズのような一部の天才、一部の才気溢れる起業家のヒラメキにしか依存できないのでしょうか?

本著は、明確に「NOである」と言っています。詳細は本著の第3章~に記載されています。

インサイトを発見するための体系立てたプロセス・工程が用意されていて、それに沿えば誰もが「欲求のスイッチ」を押す価値を開発できると主張しています。

これって凄いと思うのです。私のような凡人では無理だ、と思い込んでいましたから。

偉人のセンスや勘、つまり言葉に表現できない「インサイト発見までのプロセス」を、言葉にできているのですから。

「インサイト」そのものを取り扱った書籍、マーケティング用語としての「インサイト」の意味・理解を促す書籍は少なからず刊行されています。

しかし、読者が知りたいのはそのインサイトをどう発見するかです。凄く良く飛ぶドライバーを渡されて詳細に利点を解説されても、使いこなせなければ意味がありません。

この本が凄いのは、「じゃあインサイトはどうすれば見つけられるか?」という実用面に重きを置いている点だと言えるでしょう。

 

「人間を見る」って難しい

本著では「人間そのものを見る」点を非常に重要視しています。以下、引用です。

 

「人間の気持ち」「お客様の心」を研究することがすべてのスタートであり、その気持ちや心を充たす価値とは何かを考える。その価値を充たすために、手段として技術を用いて、実際に製品というものを提供していく、というプロセスです。「人間の気持ち」「お客様の心」は表に出ているものではなく、簡単に読み取ることはできません。

 

普段、分析業務に携わっているアナリスト、データサイエンティストとしては耳と心が痛いなぁと感じるのです。

「分析」を通じて、数字の裏にいる人間と向き合えているのか?と聞かれている気がしてならないからです。

数字は数字でしかありません。しかし、その背景にある景色、数字が生まれる過程、それが見えなければ、本来ならそのデータを使ってはいけないと思うのです。

しかしデジタルマーケティングの場合、タグを埋めればとりあえず数字が表れます。PVやSUなどの指標の意味も定義されています。したがって、一見分析をしようものならできてしまいます。

しかし、そうした数字が当たり前になり過ぎてしまって、数字を見ているのか人を見ているのかが分からなくなる場合があります。

その昔、あるブランド系サイトで、そのブランドのキーワードで流入したユーザーの直帰率が数%だった旨を報告したら「リアル店舗では考えられない。おかしい。なぜ0%ではないのか」と聞かれた経験があります。

ボットの可能性、実は探していた内容では無かった可能性、様々ありますから一概にはコレだとは言えないと思いつつ、そもそもの数字の時点で「直帰率が数%とか良すぎでしょ」と思っていた自分が居て恥じ入った記憶が残っています。

だからこそ、引用した言葉が胸に響きますし、数字の背景に居るデータサイエンティストの誕生は本当に凄いのだと考えさせられるのです。

 

インサイトの発見は、マーケティングそのものではないか?

マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーは、マーケティングを「製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」と定義しています。

つまり、マーケティングとは広告・宣伝のみならず、製品と価値を生み出すためのあらゆるプロセスであり、ストックではなくフローで見るべき活動だとも言えます。

ではどこからマーケティングが始まるでしょう。それって、インサイトから始まりませんか? と思うのは私だけでしょうか。

「だいたい良いんじゃないですか?」と言われる時代に、「これが欲しかったんだろ?」と言える価値を見つけ出し、「そうそう!」とユーザーに言わせるには、自分でも分かっていない”無意識”をマーケターは知る必要があります。その手法こそインサイトです。

「日本はマーケティング後進国だ」とは陳腐化した言葉でもありますが、それは製品開発と広告宣伝を未だ分断して進行している社内プロセスを指摘していると私は考えています。

人間を中心に据えるインサイトであれば、どうしてその人間に伝える役割を持つ広告宣伝を分断できようか。

インサイトを中心とした製品開発、インサイトを中心とした広告宣伝、これは2018年以降何らか流行・定着するのではないかと考えております。

 

最後に

というわけで、3つの「気付き」をご紹介いたしました。

 

 

合わせて、去年のインタビューのリンクをもう1度貼っておきます。改めて読むと、インサイト発見の手法にも触れていて、我ながら良いインタビューだったと自負しています。

 

モノが売れない時代。「インサイト」の考え方が私たちのマーケティングを変える
https://www.mm-lab.jp/interview/insight_thinking_changes_our_marketing/