本が大好きな人へ。1冊の本が出版されるまで作者目線でまとめてみました

松本 健太郎

 

17年9月23日、いよいよ「グラフをつくる前に読む本 一瞬で伝わる表現はどのように生まれたのか」が技術評論社から出版されます。

 

 

改めて説明すると、この本には大きく2つの特徴があります。

 

1)国内初(たぶん)、誰が、何を目的に、どんなグラフを作って、どのように誕生したのかを明らかにした。だから、このグラフにはどんな表現が向いているかが分かる。

2)もう1つは、グラフの視覚的効果の特徴を捉えて、どのような表現に向いているのかを明らかにした。だから、このグラフの見せ方、表現方法が分かる。

 

グラフのテクニック論じゃなく、グラフという本質に迫った1冊です。

この本さえあれば、テクニック論の本はそんなに要らないと思います。

 

具体的にはどんな内容なん?というのが気になる方は、1)については棒グラフの歴史について書籍の一部を公開、2)については棒グラフの特徴表現の一部を公開しています。ご一読いただければ幸いです。

1)棒グラフの歴史
誰が棒グラフを発明したのか? グラフをつくる前に読む本を一部先行公開!

2)棒グラフの特徴表現
「グラフをつくる前に読む本」棒グラフ(作り方編)を一部先行公開!

 

さて今回は特別企画。

どのようにして1冊の本は誕生するのか、その過程を「グラつく」に沿ってお届けします。

本好きな人は、普段手元にしている本がどのような過程で生まれるか興味ありますよね?

せっかくなので僕が経験した流れに沿って、ご紹介したいと思います。

 

編集者Tさんとの出会いについて(2016年7月)

最初に、技術評論社の編集Tさんとの出会いからお話します。

 

本を出すキッカケは、2016年7月1日にInnovation EGG『可視化・課題と支える技術』というイベントに参加したことです。

「見える化」がお題だったので、性能テストの結果にダメ出しをしてくださいというコンテンツをベースにデータサイエンス手法を駆使しつつ、ダイエットで痩せたネタを織り交ぜて「記録より記憶に残る選手」を目指して華々しい奮戦を遂げました。

その孤軍奮闘ぶりを見ていたのですが、編集Tさんでした。

Rを使ってt検定を実演していたので、恐らく挨拶程度に「実はデータサイエンス教本とか編集していまして…」と声を掛けていただいたのです。

「買ってます!」みたいな無難な挨拶を済ませたような気がします。

名刺交換後、「たぶんTさん、マメ研のことご存知無いだろうな〜」と思い、「やわらかいデータ分析のコンテンツを作っているので良かったら見てください」とメールをしました。

 

そのコンテンツの内容にTさんが反応してくれました。

何かチャンスかも・・・と考えて、自分が過去にビジネス書を5冊出版していること、お題さえ頂ければ何でも書けること、今はデータ分析に興味があることを伝えました。

「よかったら話しませんか?」

この言葉から全てが始まりました。

普段から「実績」を作ることは凄く大事だと思いました。

 

始まり(2016年07月)

次に、どのように出版の企画が作られたかお話します。引き出しの多さが大切だと痛感しました。

 

2016年7月21日に技術評論社に訪問させて頂き、Tさんと色んな話をしました。

Tさんが面白いと思っていること、ぼくが書きたいと思っていること、いろいろとぶつけ合った結果「本質的なグラフ本は面白いのではないか? なぜそうなのかに答えられる本。よかったら、そういう本を書きませんか?」という結論に至りました。

当時は「外資系ホニャララのグラフ作成術」みたいな書籍が大流行していました。一方でなぜ棒グラフを使うのか、なぜ円グラフではダメなのか、それに答える本なんて全くありませんでした。

グラフを作るには”ルール”があって、ルールさえ守ればセンスなんか不要。なぜ、そのようなルールが誕生したのか、歴史を辿ることが大切。それなのにみんなテクニックに頼っている。

私はそんな風に見えました。言い換えれば、そこに勝機を感じたのです。

 

この時点でグラフはウィリアム・プレイフェアから始まったことは知っていたので「彼を起点にグラフの歴史とルールについて書ければ面白いね」そういう話で盛り上がりました。

「じゃあまずはペラ1枚でいいので企画書というか、書籍の大筋を書いてみましょう」

そんなTさんの言葉が、楽しくも辛い、地獄と天国を行き来する1年間の始まりだったのです。

 

ペラ1枚の企画書作り、最初の挫折(2016年08月〜09月)

いきなり本の執筆をするのではなく、まずはペラ1枚~2枚で概要を作成します。それを「企画書」と言って、それが纏まっていれば、社内で「執筆OK」となる(らしいです)。

 

まずは大筋の企画を作ります。全体の流れのようなものです。

最初に作った内容はあまりに酷いのですが、公開します。コチラから読んでみて下さい。

やはりTさんも内心酷いな・・・と思われたのでしょう。厳しいご意見をいただきました。

 

「書籍の中で伝えたいメッセージを明確にするのが良い」

「ビジネス書も専門書もそうですが、ひとつのメッセージは必ずあります。そこが決まれば良いと思います。グラフの起源を集めた資料集的なものでも一定数需要はあると思いますが、もう少しほかの視点があった方が良いと思います」

 

要は、この企画書にはお前の意見が無い!と言われたわけです。

 

確かにそうです。この企画書では、Tさんと話した内容を纏めただけで、私の意見や考えがありませんでした。まとめサイトと一緒なわけです。

私は何を言いたいのだろう?

こうなるとドツボです。思考のゲシュタルト崩壊を起こします。時期的に少しメンタルが不調だったこともあり、完全に心が折れてしまいました。

この段階で書籍の出版が正式に決まっているわけでもなく、ボツの可能性も大いにあります。正直、企画が通るかどうかも分からないのに、自分の時間をここまで割いていいのか不安でした。

既に1ヶ月近く調査に費やし、これで「う~ん、やっぱ無しで!」と言われたらどうしようとも思うのです。

この企画を書く数年前、半分くらい原稿を書いたら「やっぱり無しで」と言われた悲惨な目に遭っていたので、今回もそういう事態にならないかという恐怖が何度も脳裏を過ぎりました。

恐らく、こうした「文章は書いていないけど何を書きたいか整理するフェーズ」で、挫折してしまう勇敢な戦士たちは山のようにいるはずです。

 

企画、通過(2016年09月〜10月)

途中、Tさんに何度も相談しました。

お互いプロなので「不安です」みたいなやり取りではなく、構成で行き詰まっている点を話して、どうすればブレイクスルーが起こせるか何度もやりとりしました。

 

このままでは本当にズルズルとダークサイドに堕ちるだけなので「9月25日までにやります!」と何も根拠もなく宣言。

お尻を決めると、俄然と「やらなきゃ感」が湧いてきてトトトンとまとまっていきます。キングダムの羌瘣のようにリズムを刻んでトトトンと纏まっていきます。

一番伝えたい「グラフの使い方」についても、自分なりの意見や考え方が纏まり、無事に企画書が完成しました。その内容もTさんから「前に良くなった」とお褒め頂きました。コチラからご確認いただけます。

「なんか売れそうw」

というありがたいコメントまで頂戴しました。

その企画書は技術評論社内で無事に通過。

企画書の作成に着手してから3ヶ月、いよいよ執筆作業が始まりました。

 

地獄の執筆作業(2016年10月~2017年02月)

ここまできて、いよいよ執筆開始です。既に企画書で「何を書きたいか」を纏めているので、あとはそれを文字にするだけの簡単な作業です。

と言っても、平日は朝から晩まで働いているので、家に着いて晩飯を食べて以降からだいたい夜中1時くらいまで、休日は1日中に机に向かってひたすら執筆をする日々が続きます。

しかも、今回の書籍は「テクニックではなく本質を書こう」とTさんと話していたので、どうしても「歴史」を調べざるを得ず、何度も図書館に足を運びました。

海外の文献についてはインターネット経由で大学図書館を調べ、国内の文献については出張ついでに国会図書館に寄りました。意外と国内文献が少なく、ウィリアム・プレイフェア以外は全滅と言っていいくらい。

なので「グラつく」を既に読まれた方はお分かりになるかもしれませんが、参考文献や参照URLは殆どが海外です。

そんな四苦八苦の4ヶ月もの時間を経て、7.7万字、作成グラフ数90個強、血と汗と涙がにじんだ原稿が完成しました。

 

って簡単に纏めてしまっていますが、死ぬほど大変だったけど、本当に大変なのはココカラなんです。

・・・実はこの時点で、登山で言えば3合目あたりだからです。

 

編集者が作家に鞭をうつ(2017年03月)

編集者というお仕事は、良い作品を仕上げるためには鬼になります。こんな感想を下さりました。

 

「なんか、面白くないですよね。ありきたりで。箱ひげ図とかヒストグラムとかいるます? これ、そんなにメジャーなグラフですか?」

「実践編いります? データがありきたりで参考にならないですよ」

「なんだか読了感が無いんです。使っているデータもダミーだから、特徴的なグラフを作るのにいいけど、現実はこんなデータ無いんじゃないですか?」

 

そんな言葉で、僕に「もっと頑張れ!」「もっとやれるだろ!」と鞭をうってきました。あぁ、これが「まんが道」とか「手塚治虫物語」とかで見た鬼編集者だ。

SansanのCMか!と思うぐらい「それ、もっと早く言ってよぉ~」と叫びたくなりましたが、そこは我慢。

 

何回か叱咤激励の言葉を浴びた後で、どこを改善しようか?という話になりました。

結局、読了感が無いのは「データがダミーで嘘っぽいから」という点にあるという結論に至りました。そこでTさんから「最近、社会統計の本を読んだんですけど、あれ面白いですよね。全て実際のデータですし」という話が飛び出しました。

Tさんの話を詳しく聞いてみると、国が公開しているオープンデータを使った分析本のようです。ちょうどこのころ、生産性の記事がバズっていたこともあって「この路線どうですか?」と相談しました。

良さそうですね、という反応を頂いたので、2割だけ残して8割書き直すという地獄のような作業に突入しました。

 

GWなんてない(2017年03月~05月)

書き直すという作業は、想像している以上に意外と大変です。

1度完成した作品の土台は残しつつ、より良いものにするために再び肉付けしていきます。ガラス瓶を割って、割れた破片を溶かして、もう1回ガラス瓶を作るようなイメージです。素材はいいんだよ素材は。

 

社会統計のデータを使うので、国のオープンデータと何度も睨めっこをします。

もともとオープンデータを使った分析は慣れていたので、どこにどんな統計があるのかは知っていましたが、ヒートマップに向いている、散布図に向いているという話になると全く別です。

これは非常に頭が痛い…。

GWは全て家に引きこもって書き直しに充てつつ、なんとか再完成に漕ぎ着けました。

結果、2ヶ月かけて6万字を書き直し、7.8万字の原稿が完成しました。

・・・実はこの時点で、登山で言えば5合目あたりです。まだ。

 

地獄の赤ペン・校閲ボーイ(2017年05月~09月)

なぜ原稿が完成して5合目かと言うと、原稿ができたのと、それがそのまま世の中に出せるかは別だからです。

完成した原稿をTさんに預けて、直ぐに赤ペンが入ります。書き方、言い回し、接続詞、適切性、確からしさ、整合性・・・あらゆる観点で赤ペンが入ります。赤をいっぱい貰って、直して、貰って、直して・・・高速餅つきのような職人芸が繰り広げられます。

こうした課題管理はGithubのissueで記録されます。この辺はさすが技術評論社だと思いました。

赤ペンを入れる中で約50個のissueが作成されます。ひたすら、僕宛に通知が届きます。赤ペンを直し切る前に、赤ペンが届きます。恐怖です。

結果、3ヶ月かけて2万字を書き直しました。

ちなみに、この赤入れはいつまで続いたかと言えば、9月4日です。既にAmazonで予約が開始されていたので「まだ原稿直している段階やけどなぁ~(汗)」って感じでした。

 

こうして、私は合計2回書き直し、3回も原稿を書いたことになります。

本作りでもっとも大変なこと何かと聞かれれば、それは3回目の原稿作り(2回目の修正)だと思っています。

なぜなら、企画書は「ニーズがあるもの」「売れそうなもの」を書ける人に依頼しますから、そうそう困りません。

1回目の原稿はとりあえず企画書に沿う、それを受けて1回目の修正は決まった枠の範囲で叩き壊せば良いので「何を直せばよいか?」という認識は合います。

しかし2回目の修正は違います。

まず作者が読み飽きて、仔細の違いに頭がついて行きません。編集者も「これでいいのか?」と迷います。Tさんとは、FBチャットで何度もやり取りしました。

 

神は細部に宿ると言います。ちょっとした細かいところなんです。でも、そこで読む集中力を切らしたら何の意味もないんです。

ちょっとした違いを気にしすぎて文章全体のバランスを壊さないよう、少しずつ修正をしていくこのフェーズがもっとも苦労しました。

 

タイトルは天啓を待つ(2017年09月)

本はタイトルが9割です。

 

現在の形に収まるまで、色んな候補が浮かんでは消えました。

 

【実用書っぽく】
・もう一度学びなおすグラフ
・もう一度学びなおすグラフリテラシー
・誰も教えてくれなかったグラフの描き方入門
・誰も教えてくれなかったグラフリテラシー入門
・学校では教えてくれなかったグラフの描き方入門
・学校では教えてくれなかったグラフリテラシー入門
・グラフリテラシー入門~主要な8個のグラフを1から学び直す~
【ビジネス書っぽく】
・なぜあなたのグラフは伝わらないのか?~主要な8個のグラフを1から学び直す~
・なぜそのデータで棒グラフを作るのか?~全てのグラフには理由がある~
・よくわかるグラフ
・よくわかるグラフリテラシー
・グラフリテラシー・ルール 読み手にデータを伝える必要最低限の流儀
※Githubのissueより抜粋。

 

何れもTさんの「これ社内で聞いてみたところ、「グラフ・ルール」「グラフ・リテラシー」もピンと来ない」という厳しいお声を頂きました。

次に出てきたのが、コチラ。

 

・「そう言ってくれればよかったのに!」誰もが納得するグラフの作り方
・「このグラフ、分かりにくい!」と言われたら読む本。
・わかるグラフにセンスはいらない 一瞬で伝わるグラフはどのように生まれたのか
・センス不要のグラフ作成講義 一瞬で伝わるグラフはどのように生まれたのか
・これからのビジネスマンに本当に必要な「グラフ作成力」 一瞬で伝わるグラフはどのように生まれたのか

 

ちょっと原型っぽいものが出てきていますね。

この後、Tさんがフッと何か降りてきたかのように一言、

 

グラフをつくる前に読む本〜一瞬で伝わる表現方法はどのように生まれたのか

 

とつぶやき、見事に決まりました。細部に宿った神が舞い降りた瞬間でした。

 

いよいよ出版へ(2017年09月~)

以上の通り、1冊の本を出版するというのは、著者側の視点だけでも非常に大変なんです。

出会いから約1年3ヶ月です。着手から約1年。

他の方はどうなのかは分からないのですが、こういう長い航海は本当に1人ではできません。技術評論社のTさんはじめ、関係各位に本当にお世話になりました。

編集、営業、カバー、などなど他にもたくさんおられます。色んな方が協力して1冊の本が仕上がります。

手塩にかけて育てた一品というより、もはや腹を痛めて産んだ子供と同義だとすら思っています。

 

途中、何度も「もう止めたい」「こんなことして売れなかったら意味がない」「誰にも相手されない」と挫折しました。

そのたびに思ったのは「このまま一生、見づらいグラフに付き合わないといけないのは嫌だ!」「グラフの歴史も、見方も、体系立ててまとめたのは俺だ!俺には伝える使命がある!」という使命感でした。

それだけが支えでした。

 

ただ、無条件に愛せとは申しません。皆さんから厳しい叱咤激励をいただければ幸いだと思っております。

本の成長の行方を見守る。それもまた、著者の役目だと考えております。

以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。