「誤解だらけの人工知能」(光文社新書)刊行記念! 2人の著者と編集長で振り返る製作裏話

松本 健太郎

 
[松本] 今回のゲストは、2月15日に刊行された「誤解だらけの人工知能」共著者であるShannon Lab株式会社代表取締役の田中潤さん、そして本書を編集して頂いた光文社の三宅貴久さんです。

対談を始める前に。三宅さんが編集をご担当された「バッタを倒しにアフリカへ」が新書大賞2018を受賞しました。おめでとうございます!

 

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バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
前野ウルド浩太郎
光文社 2017-05-17

 

[三宅] ありがとうございます!非常に嬉しいです。

[松本] 「誤解だらけの人工知能」も三宅さんにご担当いただいているので、2年連続を狙って行きたいですね(笑)。今のところ、NewsPicksでも単なるAmazonページにも関わらず、20名強にpickされているので幸先良いスタートだなとは思っています。

 

実は”誤解だらけの”出会いだった田中さんと三宅さん

[松本] まず「誤解だらけの人工知能」が誕生した背景からお伺いしたいと思います。松本が書いた「はじめに」と田中さんが書かれた「おわりに」両方に記載しているのですが、もともとは田中さんへ依頼があったと伺っています。そのキッカケは何だったのでしょうか?

[三宅] 私の上長と田中さんがある飲み会で意気投合したのがキッカケです。「田中さんという面白い人間がいる!」と興奮気味に話していたのを覚えています。その上長は人を見る目がしっかりしているので、間違いないだろうとは思いました。

そして同時に、田中さんと松本さんが対談されたインタビュー記事のURLも送ってもらっていたのです。その内容が抜群に面白かった。

 

人工知能ってそういうことだったのか会議~Shannon Lab田中潤様~
https://www.mm-lab.jp/interview/meeting_that_understands_artificial_intelligence/

 

人工知能について、あまり聞いたことの無い内容が分かりやすく書かれている。こんなに面白い人に人工知能に関する本をお願いできたらいいなと思って、それで上長と一緒に田中さんのところにお伺いしました。

[田中] 最初、ちょっとした誤解もあって(笑)。三宅さんに人工知能について色々話したんですけど、どうもチンプンカンプンで理解しているように思えない。このままじゃ書籍化なんて無理で、どうしようか考えていた時に、僕の言っていることを理解して書いてくれる松本さんを思い出したんです。

[三宅] 実は、田中さんが私をライターさんだと勘違いされていました(笑)。編集は普通、本は書きません。著者が書かれたものに手を加えるのが仕事です。どこかで認識違いがあったようです。

田中さんからは「ぜんぜんお前分かっていないな」という反応は伝わったので、さてどうしましょうと思いました。話の内容は面白いのに、書ける人がいない。そこで、この際ですから松本さんに依頼しましょうという話になったので、こちらとしては願ったり叶ったりでした。

[松本] それが7月初旬ぐらいでした。

[田中] 正直、松本さんに断られたらどうしようと思っていました。恐る恐る連絡したら、直ぐに連絡来て、即OK貰えたので、良かったと思いました(笑)。

[松本] 三宅さんや上長の方が田中さんに目を付けられたのは、正直意外だという印象を受けました。田中さんはいわゆるコンサル的な人たちの語る人工知能論と間逆の主張をされています。人工知能本を出している人たちに対して「お前、それ違うよ」「何も分かってないな」と言う側だと私は思っていました。ですから、光文社として田中さんにお声掛けされたのは、偉いなって思いました。

[三宅] 編集者として言うと、田中さんと松本さんのインタビュー記事があったからです。あれが無かったら、全体像が掴めませんでした。結果として、田中さんに書籍をお願いしていたかどうか…。

もう1つ、光文社新書では新しい人を発掘したいという想いが常にあります。面白ければいいじゃん!というノリもあってお願いしました(笑)。実は、田中さんと対談されている松本さんってそもそもどういう人だろうかと思ってネットで調べてみると、松本さんが書かれたコンテンツを私は何本か読んでいたんです。日経ビジネスオンラインに載っていたシンゴジラの記事とか。そこで松本さんにも興味を持って、この新しい2人がタッグを組んだ書籍を是非読んでみたいと思うようになりました。

[松本] やっぱWEB上のコンテンツって大事ですよね。

 

1冊の本を仕上げるのって、こんなに大変です。

[松本] 8月末日にあった対談の帰りに、光文社の別の社員の方から「普通、対談の文字起こしをして原稿が完成するまで早くて3ヶ月、通常なら半年ぐらい」と聞いていました。今回も6ヶ月ぐらいの工数を想定して、4月ぐらいに刊行できればいいですねという話をしていました。実際のところは、対談の文字起こしを頂いたのが9月初旬、12月中旬に脱稿まで持って行けました。私、頑張りました(笑)。

早めに刊行できて良かったなと思っているのは、2017年末から2018年初頭ぐらいにかけて人工知能を取り巻く環境は明らかに潮目が変わってきています。例えば、「誤解だらけの人工知能」にも少しご紹介しているのですが、東ロボくんでお馴染みの新井先生が書かれた本がもの凄く売れています。

 

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AI vs. 教科書が読めない子どもたち
新井 紀子
東洋経済新報社 2018-02-02

 

新井先生はシンギュラリティ否定派の代表的存在の1人です。新井先生の本にもその主張が存分に盛り込まれています。2018年は、こうした研究者の方の「冷静に見よう」という呼びかけが浸透する1年ではないでしょうか。言い方を変えると、これまで話を盛った本の方が売れていたのが、実際のところどうなの?という声に応える本の方が売れるのではないでしょうか。

[田中] 話を盛られてしまうと、それを真に受けて相当勘違いした人が弊社に来てしまうので困るんです。ちょっと勘弁してよ!と思うことも少なくありません。そういうときに、まずはこの本読んでくださいと言えるようになるので凄く楽ですね。

[松本] 「誤解だらけの人工知能」は、人工知能について研究されている方からすると「はいはい、それぐらい知っていますから」という内容が多いかもしれません。ですが、そういった方々は全体の1%にも満たないはずです。残りの99%ぐらいが人工知能を誤解したままですから、その方々に向けた本になるでしょう。

[三宅] 対談に同席させていただきましたが、最初いきなり画像認識の話から始められていましたよね。私、ピンと来ていませんでした。なぜ画像の話なんだろう、早く人工知能の話してよって思っていたぐらいですから(笑)。でも仕上がった原稿を読んで、そういうことだったのか!とストンと理解できたぐらい、読みやすいし分かりやすかったです。

[松本] 第一稿が仕上がりましたよと三宅さんにご連絡差し上げたのは2017年11月初旬でした。でも原稿自体は9月末に完成していました。

空白の1ヵ月半何をしていたか。だいたい10万字を目安にしてくださいと言われたので、目安として1時間=1万時だと考えて、10時間対談しました。でも対談そのものを整理すると6万字しかないのです。これは参ったと思いました。でも、そこから新たに対談するとなると時間も掛かりますし、対談用のネタをもう1回仕込まないといけない。

「誤解だらけの人工知能」では、田中さんの魅力をいかに引き出すかがすごく大事だと私は考えていて、そのために対談の事前準備として、質問表を作成することにしました。ただ、ちょうどシベリア鉄道旅行とタイミングが重なってしまったので、列車に揺られながら人工知能の調べ物ばかりすることになりました。別にロシアでする必要なくね? と言われそうですね(笑)。

事前に田中さんから「5年、10年先にこの本を読み返した時に、ちゃんと技術的観点からも予測できていると言われるような内容に仕上げたい」とオファーは頂いていました。上辺だけを取り繕った内容も、技術的に難しい内容も避けなければいけない。それと同じ作業を5万字分繰り返すのは、ちょっとした苦行です。

そこで、良いラインを狙うにために、言い回しを変えたり、話を肉付けしたり、かなり苦労しました(笑)。

[田中] 対談後は松本さんに任せていましたから、その辺は全然知りませんでした。第1章と第2章がすごく綺麗にまとまっていて、読み物として普通に面白かったので、そんな苦労があったなんて思いませんでした。本当に感謝です。

あとがきだけは1から書きましたけど、偏差値40の高校で国語の成績2しか取ったことないのに上手く書けたなぁ、とは思います。もちろん三宅さんに丁寧に編集してもらったおかげですけど。

[三宅] 本当に数学の方なのですね。

[田中] そうです。僕は数学しかできない人間です。高校3年の時は国語の成績が1、1と続いていて、卒業すら危なかった(笑)。でも先生に配慮して貰ったのか、3学期末の古文のテストに自分の好きな三国志が出てきて、推論で答えられたので2が取れました。それでギリギリ卒業できました!(笑)。それでも八王子の片倉高校の最高学歴者の一人じゃないでしょうか。

[松本] 三宅さんにも何度か無理を言ったような気がします。

[三宅] 2月に刊行しましょうと決めたのが2017年末でしたから、かなり超特急で進めた気がします。せっかくの正月も使っていただいて、人工知能の知識が無い私が読んで分かり難い点や文脈が繋がっていない点を松本さんに補足してもらいました。

田中さんから「まだ言い足りないところがある」という話は頂いていたのですが、2017年末時点で分かっている内容を早く出した方がいいだろうと考えました。

[松本] 急かした1人が私です。みんなが薄々思っているけど、改めて言語化してこなかった内容を「誤解だらけの人工知能」でまとめきれたと思っています。だったら早く出したほうがいいでしょう。他の誰かに先を越されたく無かったですから。例えば地元の銭湯で電源の切れたPepperくんが下俯いて微動だにしない、とか(笑)。

[田中] そこらへんは僕空気読めない人間なので、言っちゃいました。紹介してもらった三宅さんの上長も、空気が読めない点を買ってくれたと思います。

[松本] 文字起こしをして話し言葉から読み言葉に変えないといけないとき、いかに田中さんのキャラを崩さず、直し過ぎず、アクだけを取り除くかが凄く大変でした。本来、文字起こしだけだと10万字以上はあったんですが、結構アクを取り除いてしまって、結果文字数足りなりました(笑)。

[三宅] 最終的に第4稿まで編集しましたが、これでも相当濃いと思います(笑)。話し言葉と書き言葉はやっぱりテンションが違いますから、想定より文字数が減ってしまうのは仕方がありません。「誤解だらけの人工知能」は凄く良い本なので、なるべくたくさんの人に受け入れてもらうように注意を配る必要がありますから。

[田中] やっぱ売れるためには間口を広げないとダメです。あんまり濃すぎると読者層が狭まっちゃいます。

 

既に頂いているご批判への反論、感想

[松本] 新書の帯に「人工知能の研究開発者が語る、第3次人工知能ブームの終焉の可能性と、ディダクション(演繹法)による第4次人工知能ブームの幕開け」と書いています。そのディダクションという単語が誤解を招いているのか、少なからずご批判を頂いています。

田中さんの主張される「ディダクション」をここでおさらいしておきましょう。

ディープラーニングを使って学習した結果、りんごらしいという結果が出たときに「違うよ、イチゴだよ」とフィードバックする必要があります。でも、ネットワークのどこそこを修正するという指定ができません。勝手にイチゴからりんごという答えが出るよう、機械がどこかの重みを変えるだけで、私たち人間は、なぜ、どこが、どう変わったのかは分かりません。

せめて何層か手前に戻って、どの辺りでイチゴじゃなくてりんごだと判断をしたのかが分からないと、大量に画像を食わせ続けることになってしまう。この何層か前に戻って、何ならこのニューロンからイチゴらしさの確率が上がったよと分かれば嬉しいですよね。それが「ディダクション」です。

[田中] 第3次人工知能はディダクションが無いから、人工知能に理由を求められないというデメリットを理解していない人が多いです。その辺りは本に詳しく書いています。

[松本] 現時点で、ディダクションというか、ディープラーニングの途中計算をしようという取り組みは始まったばかりでしょうか?

[田中] いろんな研究者が内部の研究を始められています。ニューラルネット自体は元々ある技術ですが、階層を増やすと計算力が爆発しちゃうから使えないという前提がそもそもありました。今は計算を端折る、近似で求める、GPUが登場した等、色んな技術的な進歩があったから、ディープラーニング、多高層ニューラルネットワークの端緒がようやく開きました。なので、内部どうなっているの?という議論に進む前に「すげー」「やべー」というテンションになるのは仕方が無い。だって、今までやれなかったことができるようになったのですから。

内部の研究が始まったのは去年の後半ぐらいです。内部がどうなっているのか分かって、かつ論理学が紐付いてきて、それでようやくディダクションに繋がるのかな、と思います。

[松本] 次行きましょうか。ディープラーニングのデメリットがこの本では強調され過ぎている、という意見を貰いました。

[田中] そうかなぁ。今できること、まだできないことを区分しようと言っているだけです。弱点を強調したつもりは全くないです。妄想と現実を分けましょう、と提案しているだけです。

[三宅] そうですね。サブタイトルも「限界」と記載していますので。

[松本] では次。ディープラーニングでやれることって意外と少ないですね、という意見も貰いました。

[田中] いや、多いでしょ(笑)。何を言っているんでしょうね。

[三宅] 私は田中さんの言われるところの「妄想」に囚われている側の人間だったので、こういうものなんだ!という気付きと同時に、同じ感想を抱きました。

[松本] 三宅さんの感想が僕は全てだと思っていて、勝手に期待値を上げている人がいて、そうした喧騒を知って期待値を上げてしまった人たちがおられます。それは悪いことではないんです。新しいサービスってそういうものですから。でも、1度上がった期待値は下がらないし、下がるときは一気に下がります。

ディープラーニングって、今までの報道のされ方からすると「無敵」だし、「最強」だし、「人間を凌駕」するし、とにかく万能感が出ていただけに、「こういうことはできないよ」という論理的な説明は「なーんだ!」というショックが大きいのかもしれません。

[田中] 本来なら期待値をコントロールする時系列的な発想が必要ですね。ニューラルネットワークは汎用性が高いので、人工知能としてどんどん進化していくと思います。でも2018年ならこれぐらい、2019年ならこれぐらい、という進化の過程があります。一気に2030年の話をしても仕方がありません。それはメディアの責任であって、私たち研究者の責任ではありません。

[三宅] チェスも囲碁も将棋も、人工知能がトッププレイヤーに勝利したから凄い。そうすると、他のジャンルでも勝ってしまうと思いがちです。でも、人工知能が活躍している領域は一種の完全情報ゲームで、人工知能が一番得意としているジャンルです。だから、Aで活躍しているからといってBでも活躍すると考えてはいけない、とこの本にも書かれています。

[田中] それが間違った帰納法です。あれもできる、これもできる、だからこれだってできるという勝手な思い込みです。

[三宅] この本ではちゃんと整理されていて、その先の展開の可能性と、一方で限界についてもロジカルに整理されていると思います。

[田中] 例えば孫正義さんとか著名な経営者たちが「ディープラーニングはすごい、こんなことができそうだ」と持ち上げていますけど、いつまでにできるかって時間軸を言わないですよね。「理論的には可能だ」と言ったとしても、まだ実際にできていないわけですから説得力に欠けます。段階を追って進歩していく部分を無視し過ぎです。イノベーションという単語で片付けがちですよ。

[松本] 孫さんとPepperのやり取りは台本がありましたからねぇ…。

[田中] 世間の人は孫さんとPepperのやり取りを見て、対話していると思っちゃったわけです。だからPepperが凄く売れたし、思っていたのと違うから地元の銭湯で電源が切れて下俯いた状態で微動だにしない。そこは僕みたいに空気読めない人が、業界に冷や水を浴びせていかないといけません(笑)。

[松本] その他には…「こういう技術革新が激しいコンテンツはウェブでやって欲しい」という批判もありました。わざわざ本にする意義って何という意見です。

[田中] 今はWEBのほうがダメでしょう。どこの誰が裏取りしているか分からないフェイクニュースの宝庫ですから。俺そんなこと言ってないよ!みたいな内容もWEBに掲載されています。僕もそういう被害に遭いました。紙でも電子書籍でもいいですが、多くの大人が関わって出版するって、要は「信用」なんです。

[三宅] 田中さんのおっしゃる通りで、こういうパッケージになるということイコール信用があると思っていただけるといいですね。

あともう1つは、多くの人が本という形態で情報を摂取するという習慣を持っているので、この形態で情報を伝えるメリットはあると思います。ただ、若い世代が本を手に取る機会が減っているのは事実なので、そこをどうするかは考えなければいけません。

[松本] ここは私の意見も加えさせてください。ネットだとnote等が流行っていますが、それでも長くて1万文字、人気があるコンテンツは3000字~4000字です。今回の本は10万文字ありますが、そもそもそれだけ文章を書ける人が減ってきています。1つの物語を体系立てて10万文字も書くのは、普段は3000字~4000字しか書いていない人からしたら拷問です。

でも10万字も使って体系立てた内容は、3000字~4000字を30回積み上げた内容より絶対充実していると思います。コンテンツがトップダウンで創られることはあっても、ボトムアップすれば完成することはありません。心臓移植のように絶対にどこかで拒否反応を起こします。これはコンテンツを作った経験がある人なら絶対に納得してくれると思います。

紙というデバイスである必要はあるかという議論はあるかもしれません。しかし、逆にブラウザで10万字読めますか?という点は逆質問したいところです。WEBにはWEBに、本には本に合ったコンテンツがあります。本の方が体系立てて読みやすいのは間違いありません。

[三宅] 書籍はもともと単行本がメインで、もっと文字数があって分厚いのです。新書はその簡易版になります。新書が読まれるのは良いのですが、単行本を読む体力が無くなっているかもしれないし、一概に全て良い全て悪いと言い切れる話ではありません。

[松本] うちの姪が今年11歳になるのですが、漫画も読めません。理由は「文字が多いから」です。動画ばっかりです。MixChannelとかYoutubeばっかり見ています。

[田中] 今凄くYoutube面白くなっていますよ。個人レベルでやっている企画でも、凄く質が上がっている。面白い内容に目が向くのは良いのではないですか?

 

泣く泣くカットした話―製造業は新しいものを作れているか

[田中] 本に入れたくて、でもこれ以上は入れられないなと思ったので、カットした話をさせて下さい。日本のメーカーは海外のメーカーと比較して、そんなに新しいもの作れていないという話です。

2000年より少し前にアメリカに住んでいた時、ルンバの初期モデルか恐らくプロトタイプ試作機をベストバイみたいな大きい家電屋で見たことがあります。今まで見たことがない、ブンブン言いながら動く丸い機械だったから店員に「これ何?」と聞いたんです。そしたら店員が「分からない」と。それ聞いて、アメリカは店員が分からないもの売っているのかと知って、僕びっくりしたんです(笑)。その人がわざわざ調べてくれて、そしたら「掃除機らしいぜ」と。こんな掃除機あるんだ!と2度ビックリです。

ちゃんと吸うのかな?と思って、ティッシュを床に置いても吸わない。壁にガンガン当たって、なかなか前に行かない。要は使えない機械です。他の日本人は呆気に取られちゃって、アメリカってしょうもない物作るねという反応でしたが、僕は「アメリカすげーな」と思いました。こんな試作機レベルでも、反応を探るために売るからです。

日本には、そういう精神が無くなりました。70年代とか80年代で製造業神話ができちゃいましたけど、それより前はメイドインジャパンって粗悪品の代名詞でした。あまりに粗悪な日本製が送られてくるからアメリカでは「日本は戦争が終わっても製品という爆弾を送ってくる」というアメリカンジョークがあったぐらいです。

そういう時代を忘れて日本=クオリティ高いみたいな変なプライド持ってしまっている。だから、いったんプライドを壊してどんどん新しいもの作っていかないといけないけど、そんな気概無いですよね。1度高まってしまった環境だから、もうそれを下げないという変な発想に凝り固まっている。新しいものを世に出すと、何をしても期待値も品質も性能も満足度も下がります。下がらないってことは、新しいもの出てきてないってことです。

だから、本の中でも触れていますが、Pepperを出したソフトバンクは偉いんです。僕なんか空気読まずにdisっていますが、でもdisられる製品を完成する前に出すソフトバンクは凄い。

[松本] 全く見たことが無い、よく分からないものを見る機会は無くなりましたね。総合家電屋に言って、何これ見たことない!という体験はここ十数年振り返って・・・スマホぐらいかなぁ。

[田中] 日本ってアメリカや中国みたいに人力パワープレイができない国です。だから、本来ならひたすら技術革新しないといけないんです。

[松本] それは以前に対談させていただいたデコムの大松社長との対談でも触れましたが、今は「だいたいいいんじゃないですか?」時代だと大松さんは主張されています。

 

モノが売れない時代。「インサイト」の考え方が私たちのマーケティングを変える~デコム大松孝弘様~
https://www.mm-lab.jp/interview/insight_thinking_changes_our_marketing/

 

企画・開発と言っても高機能・高品質・高性能が行き過ぎちゃって、新しい視線が生まれない。言い換えると、高機能・高品質・高性能以外の製品開発をやった経験が無い。だから「だいたいいいんじゃないですか?」という製品しか生まれない。

人工知能も高機能・高品質・高性能のために使われています。見たことが無い機能のために使うというわけではありません。

[田中] 今、ラズパイのような小さい基盤がいっぱいありますよね。だから、試作でもいいから創れるはずです。そのトレンドが起きていないのは残念です。

[松本] 今あるものをより良くより安くというアプローチは、未成熟市場でこそ有効です。2018年1月にベトナムへ旅行しに行ったのですが、家電やスーパーは、日本のそれと全く変わらなかったです。

 

読者の皆さんへ

[松本] この対談を読まれている読者にメッセージをお願いします。

 

 

[三宅] 「誤解だらけの人工知能」という本は、月並みな言葉で言うと、人工知能の今がわかるだけでなくて読み物としてもめちゃくちゃ面白い1冊です。研究者による現実的な行く末が示されていると思います。あとは本を手に取って、田中さんのキャラクターにぜひ触れてください。

[松本] 読み物として面白いというところは重要だと思っています。人工知能本って単行本が多くて、しかも文章ガチガチですよね。初めて読むには相当ハードルの高い1冊が多いです。東大・松尾さんの本ですら挫折してらっしゃる人がいます。

[三宅] あとは、この本には「ほんとかよ?」と思うところがいっぱい詰まっています。例えば自動運転で言えば、2020年には全く間に合わないでしょう、って話は目から鱗でした。そういう「ほんとかよ?」って話が多く詰まった本は売れるというのが私の経験則です。

[松本] 100人いて95人ぐらいが信じている内容って、101人目が現れて「それ嘘だぜ!」って言っても集団バイアスがかかって誰も信じてくれません。何が正しいかじゃなくて、誰が正しいかが決めてしまっている。それに、自分の持っている考え方を捨てるって勇気が要りますから。そこを、この本が空気読めずに人工知能の妄想を1つ1つ壊していると思います。田中さんはいかがですか?

[田中] そりゃ、剛力彩芽のくだりでしょう(笑)。あれ読んで、松本さんすげーなって改めて思いましたからね。

[三宅] そうですね、私もルビちゃんと振りましたから(笑)。

[松本] 前著の「グラフをつくる前に読む本」もそうでしたが、真面目な話ばかりできないので、どこかで遊びたくなっちゃう。どのあたりに剛力彩芽さんが登場するかは買ってみてチェックして下さい。

では私からも1つだけ。脅威論でも無ければ、幸福論でも無い、ありのままの人工知能というのは去年からトレンドとしてあります。ただし、どっちつかず的な話が非常に多い。要は脅威論への反論、幸福論への反論に終始しています。結局あなたの主張は何なの?に応えていません。そんな中、王道を進む本に仕上がったのではないでしょうか。

[三宅] 私の身近でも、非常に評価が高いので凄く期待しています。2017年12月の段階で、若い営業部員が「今年読んだ光文社新書で一番良い!」と言ってくれているので、本当に楽しみです。

[田中] 次回作は統計やりたいですね。「統計学は最強の学問である」という本が過去にありましたけど、殆どABテストしか触れていませんから。断片しか無いので、相当誤解を生んでいますよ。

[松本] あの本で、ちょっと誤解が広まったなぁと思うのは、統計学=データサイエンスと同義になってしまった点でしょうか。そのあたりは、また「誤解」を解ければ良いかもしれません(笑)。

本日はどうもありがとうございました!

 

対談後の記念写真。