宅配便の危機を可視化したので皆さんと解決策を考えたい

松本 健太郎

 

日本の宅配が今、悲鳴を上げているようです。

 

ヤマト運輸 労組が宅配便の引き受け抑制を要求(NHK)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170223/k10010887131000.html

 

佐川急便が「全国的に集荷、配達の遅延」と“予告” 年末の荷物増加に人手不足で(SankeiBiz)
http://www.sankeibiz.jp/business/news/161228/bsd1612281713009-n1.htm

 

「ECの増加に伴い宅配便取扱個数が急増しているが、その需要に供給側が追いついていない」という表現は正しいのでしょうか。

今、日本の宅配で何が起きているか、オープンデータから推察していった結果、次のことが分かりました。


・今のままだと全体で宅配個数40億個、ヤマト運輸は2020年に宅配個数20億に届きそう。
・配送料有料は解決策にならなそう。(絶対に無料を押し通す業者はいる)
・「輸送」と「配達」の分離をもっと進められないか。
・結局、現状を前提とするなら、これといった解決策は無いのでは。

 

1つ1つ深掘りしていきます。

 

そもそも宅配便とは?宅急便じゃないの?

まず言葉の整理をします。「宅配便」と何でしょう?「宅急便」とは何が違うのでしょうか?

「宅配便」とは、小さな荷物を各戸へ配送する輸送便を指します。荷主の戸口から届け先の戸口まで迅速な配達(最短で翌日)を行うことが特徴だと言われています。

荷物を送りたい人(企業)と、荷物を受け取りたい人(企業)を結ぶのが宅配便の仕事だと言えるでしょう。

 

宅配の全体の流れ(イメージ図)
宅配の全体の流れ(イメージ図)

 

ちなみに戦前に初めて鉄道省が宅配サービスを開始(1942年撤退)、戦後は民間業者として初めて青森県に拠点を持つ三八五貨物自動車運送(現・三八五流通)が1973年に「グリーン宅配便」を始めています。

その約2年後の1976年に大和運輸(現・ヤマト運輸)が関東地区で「宅急便」を始めました。実はヤマトが日本初でも民間初でも無いんですね。

 

ちなみに「宅急便」とはヤマト運輸が提供する宅配便サービスの商標を指します。

「魔女の宅急便」があるので「宅急便と宅配便どう違うの?」と悩んでいましたが、原作者の角野さんが「宅急便とはヤマト運輸のサービス名」と知らなかったことが理由のようです。

それぐらいヤマト運輸がこの宅配便という市場を開拓してきたことを示すエピソードと言えます。詳しい詳細は小倉昌男さんの本に詳しいと思います。

 

photo

小倉昌男 経営学
小倉 昌男
日経BP社 1999-10

 

データで見る「宅配便取扱個数」の推移

では、その宅配便市場に今何が起きているのでしょうか。国土交通省が発表している「宅配便等取扱個数の調査及び集計方法」を見てみましょう。

このデータでは、昭和59年(1984年)以降の宅配便等取扱個数の推移が明らかになっています。Tableauを使って棒グラフで描画してみました。

 


 

次に前年比較を棒グラフで描画してみました。

 


 

主に1999年と2007年が大きく伸びているのですが、1999年は佐川急便の参入、2007年は郵政民営化に伴いゆうパックが統計データの調査対象に入ったためです。

2014年のみ謎に横ばいで推移していますが、2011年以降は今までの推移とは異なる成長期に突入していそうだと分かります。

 

公開されている限りもっとも古い平成13年(2001年)以降は事業主毎の宅配便等取扱個数の推移も明らかになっています。面グラフで描画してみました。

 


 

こうしてみると、ヤマト運輸が市場の圧倒的な王者であることが分かります。Amazonとの協業を始めた2013年以降、一気に宅配便取り扱いは急増していることも分かります。

 

宅配便の伸びを支えているのは何か?

この先を予測する前に、需要の根元はどこにあるのかについて推察しておきます。

「EC(特にBtoC)急増」と言われていますが本当でしょうか。

 

各報道は、経済産業省が毎年更新している電子商取引実態調査を引用しているようなので、実際に資料を見てみました。

 

 

最新の2015年データによると、消費者向け電子商取引(BtoC)によると、市場規模は約13.8兆円だそうです。

しかし、その内訳を見てみると、旅行やチケット販売、電子書籍など、宅配を必要としない領域が含まれていることが分かります。なので、このデータを使った分析は間違いです。

内訳の1つに物販系分野がありました。2015年には約7.2兆円、BtoC市場の約半分を占めています。この領域は宅配を必要とすると考えて、この市場の成長推移を2005年まで遡って調べてみました。

その結果を、Tableauを使って棒グラフで描画してみました。

 


 

2014年に今までより伸びているのは、「物販系分野」のカテゴライズ方法に変更があったからです。それを間引いて考えても、おおよそ前年比15%増の伸びを続けていることが分かります。

さて、ではこのデータと、宅配便取扱個数の2軸で散布図を描いてみましょう。

 


 

2007年~2009年にかけて、BtoC市場が成長しているのに宅配便取扱個数が横ばいの理由がちょっとよく分からないのですが、2009年以降は相関関係が現れています。

疑似相関かもしれないし、第3の原因変数があるかもしれないのですが、宅配を必要とするインターネットサービスの成長により、宅配便取扱個数は増えていると見ても良いかと考えます。

 

ヤマト運輸の”202020問題”

野村総研が発表したところによると、2020年にはtoC市場は約23兆円に膨らむようです。半分が物販系だと仮定して、2015年には約7.2兆円だった市場が5年間で、およそ12兆円に膨らむ可能性があるのです。

 

2021年度までのICT・メディア市場の規模とトレンドを展望(野村総研)
https://www.nri.com/jp/news/2015/151125_1.aspx

 

というわけで、簡単にExcelで回帰分析を行ってみました。

toC市場の売上規模(億円)を説明変数、宅配便取扱個数(単位は百万個)を目的変数に、2009年から2015年の7年間のデータで単回帰分析を行いました。

その結果、以下のような結果となりました。

 

回帰分析の結果
回帰分析の結果

 

売上規模が1億円増える毎に宅配便取扱個数(単位は百万個)が約1.4万個増えるようです。

2020年の市場が仮に12兆円だとすると、回帰分析のモデルを基準に考えれば、2020年の宅配便取扱個数が44億件であることが分かります。

ヤマト運輸の市場シェア率を仮に現状の48%のままだとすると、早くて2019年、遅くとも2020年には取扱個数が20億件を突破します。

ヤマト運輸2020年20億件!

今でも現場が疲弊しているのに、強い需要によりさらに2億個増える想定なのです。

 

解決策はあるのか

報道の見出しを見ていると「アマゾンが4割」などの文字が飛び込みます。

 

アマゾン宅配急増、ヤマトに集中 「今の荷物量、無理」(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASK2R5WFCK2RULFA03S.html

 

ヤマト運輸がアマゾンと提携した2013年は宅配便取扱個数が1.8億個増えています。それまでの伸びの推移から想像するにamazonは1億個程度だと推察されます。

この増加量はヤマト運輸の取り扱う個数の5~6%程度です。「アマゾンが4割」というセリフとのギャップを感じずにはいられません。まさか、それから3年間で4割にまで増えたということでもないでしょう。

考えうる点としては、


・地域差が激しい。(都内の宅配便取扱個数が増えている)
・不在になる可能性が高い。(アマゾンで注文するぐらいだから平日昼間はいないはず)
・配送員(セールスドライバー)が減っている。(大変だしね)

などがあげられます。つまり、特定地域間のみ宅配便取扱個数が劇的に増えているのではないかと思うのです。

料金を値上げする(送料無料の廃止)、不要不急の物は買わない、時間帯指定をしないなどの声が聞こえてきますが、GMOリサーチの調査によるとネットショッピングの不満点第1位は男女ともに「送料が高い」ことを挙げています

 

「ネットショッピングに関する実態調査」を日本国内で実施
https://www.gmo.jp/news/article/?id=5567

 

なんだか人間の業を感じる結果ですよね。

送料無料が現場を疲弊させると元に戻そうとしても消費者はそれを「値上げ」と捉えるでしょうし、ヤマト運輸がamazonから撤退したとしても他業者と提携して配送料無料を続けるだけではないでしょうか。

もしかしたらamazon自体が日本でも運送業者を作るか買収するかもしれませんね。

 

1つの仮説ですが、いろんな書物を読んでいて、もっとも大変なのは「配達(および不在による再配達)」であることが分かりました。

思うに、アスクルなどの各大手EC業者がラストワンマイルを埋めようと努力されているなか、そもそも宅配業者がそこを埋める努力に、今どれくらいの意味があるんでしょうか?

ここは思い切って「輸送」と「配達」の分離に挑戦するのも1つの選択肢ではないでしょうか。既に米国ではamazon Prime限定ですが「Amazon Flex」が導入されています。

 

宅配の全体の流れ(イメージ図)
宅配の全体の流れ(イメージ図)

 

ちなみに、宅配便に関する国土交通省告示を読んでも、輸送と配達は一緒でなければならないとは書いていないと思うのです。ちゃんと読めていないだけかもしれませんが…。

 

標準宅配便運送約款
http://www.mlit.go.jp/common/000021073.pdf

 

Uberのような個人事業と同じく「配達」だけをやる個人・あるいは組織がいてもいいと思うのです。各宅配便業者かEC事業主から配達料を貰うとか…。

他にも、街中の空き店舗を借りて、そこに荷物を集約し、荷受人から「配達して~」とPUSH通知が届けばバイトで雇った人が届けに行くとか…。代わりにチラシ一緒に撒けたりすれば良いかも…。

そういう意味では、ウケトルとかすごく良いサービスだと思うのです。

 

再配達ゼロアプリ「ウケトル」 | 便利でエコなデリバリーの仕組みを創る
http://uketoru.net/

 

例えば、コンビニが荷送りの取次になってくれるなら、配送の取次だってやれないでしょうか。都市部限定で。コンビニの店員が配達してくれる、とか。

コンビニ業界で真っ先に銀行業に取り組んだセブンイレブンが今の段階で参入しないということは、それ以外の問題もあるのかもしれません。

例えば、昨今のコンビニもまた、恵方巻き問題や、違法バイト請求問題など、働く人に関する様々な課題を抱えているようです。

 

ちなみに月刊コンビニによると、セブンイレブンは都心部でこんなに店舗があるようです。過去3年間の推移(最新は2016年10月)店舗の半径500m以内に限るとすれば、結構良い拠点になると思うんですけどね。

 


 

働く人が足りない。必要な人手が足りない。なんか、大変な時代になってきましたね…。

皆さんなら、どのような解決策を思い浮かべますか?

 

参考文献

photo

アマゾンと物流大戦争 (NHK出版新書)
角井 亮一
NHK出版 2016-09-08