欲しい服が無い!今アパレル業界で何が起きているのか?

松本 健太郎

 

既存のビジネスモデルを破壊するデジタル・ディスプラションの大波をモロに喰らった業界を調査する本シリーズ。

前回は音楽業界におけるCDの売り上げについて調べました。

日本で定額制音楽配信サービスは定着するか?
www.mm-lab.jp/report/does_streaming_music_distribution_service_settle_in_japan/

ちなみに特別編として、「グラフをつくる前に読む本」で雑誌業界の衰退に関する調査結果を報告しています。興味ある方はご一読いただければ幸いです。

 

今回はアパレル業界です。

ライザップに入会して劇的に痩せたという背景もありますが、MBさんに出会って以降、月1回服を買うのが楽しみになりました。

それまで服を買うのは「趣味」ではなく「義務」で、どの服を買えばいいのか分かりませんでした。欲しい服なんてありませんでした。ファッション雑誌を見ても、キレイ目な男前の上辺だけ掬っている印象しか持てず、不信感すら抱いていました。(笑)

服を買うのが楽しみになってくると、アパレル産業自体に興味が湧いてきます。奇しくも「誰がアパレルを殺すのか」という書籍がヒットしており、何か地殻変動が起きていることだけは分かります。

そこで今回は、私なりに調べてみました。結論としては以下の通りです。

 

1.市場はこの四半世紀で3分の2に縮小。しかし商品点数は2倍に倍増。恐ろしいくらいの売れ残りが発生。
2.国の提供する繊維流通統計は不正が発覚して廃止。国にすら公開できない「ブラックボックス」がアパレル業界にある?
3.本質は「供給過剰」では無く「マーケティング不在」。買いたい服が無いと顧客に言わせている時点でマーケティングの敗北。

 

ありえないほど服を作って、ものすごく売れ残っている

そもそもアパレル業界の市場規模はどれくらいでしょうか。

様々なデータがあるのですが、経済産業省が2014年に発表した「日本ファッション産業の海外展開戦略に関する調査」(※1)を参考にします。

 


 

2002年11.3兆円から2013年9.4兆円、12年間で約17%縮小しています。2010年以降は横ばいですから実質9年間で約17%縮小しています

つまり1年毎に約2%ずつ市場が縮小している計算になります。

ちなみに、矢野経済研究所は1991年15.3兆円から2013年10.5兆円へ衰退していると定義しています。およそ計算と合致しそうですね。

 

少し見方を変えて百貨店業界のデータを見てみましょう。

日本百貨店協会(※2)が発表しているオープンデータによると、2004年には約3兆円あった衣類の売上は2016年には約2兆円、13年間で約33%縮小しています。リーマンショックの凄まじさが垣間見えますね。

 


 

百貨店の売上の3割はアパレルだと言われていますから、それに依存していた業界が阿鼻叫喚に陥るのも何となく分かります。

市場全体以上の落ち込みを示しているので、アパレル不況の一因は「百貨店で服が買われなくなったかららしい」と推察もできます。

 

さらに、家計調査も調べてみました。

 


 

2015年を100とする世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済(※3)の消費水準指数を見ると、「被服及び履物」の指数推移は1980年代は190~200でしたが、1990~2000年代は凄まじい勢いで下降しています。

ちなみにその減少分を吸収しているのは「交通・通信」です。インターネット接続料も、携帯代も、この分類に入ります。服を買わなくなった分、ネットに金を使っていると考えればいいでしょう。

ちなみに「グラフをつくる前に読む本」で分析した雑誌業界の衰退に関する調査結果も、本読む時間がネットで何かする時間に取られていると分かりました。

ネットの破壊力よ。

 

こうして並べると、どの指標も結果は微妙に異なるようです。まぁ、およそ「1990年以降に年2%縮小」だと考えればいいでしょう。

それにしても、たった約四半世紀で市場が3分の2に縮小するとか地獄ですね。

 

市場がここまで縮小しているとなると、市場に流通している商品の数が減ったり、値段が下がったり、様々な影響が出ているはずです。

こちらについては、経済産業省「繊維流通統計」(※4)や日本繊維輸入組合が公表しているオープンデータが参考になります。

 


 

図にある通り、1990年は約20億点あった生産量は2014年には約40億点に倍増しています。

つまり、この四半世紀のうちに市場は3分の2に縮小したけど、供給量は2倍に増えたのなら、アパレルの単価が3分の1に減っている計算になります。

実際、図を見ると、点数供給の国内比率は1990年には50%近くを占めましたが、コストの安い海外へ流出が進み、2014年には3%台にまで下がっています。どれくらいからは不明ですが、単価は下がっているでしょう。

 

しかし、そんなことあるでしょうか?いくらデフレだからと言って、単価の値段が3分の1にまで下がるとさすがに統計指標に異常をきたします。

「誰がアパレルを殺すのか」でも、この奇妙な現象を取り上げていますが、実際のところ「物は作った、しかしかなり売れ残っている」というのが現状でしょう。

1990年代以降、2010年も終わりが見えかけている中で「なんか変だなおかしいな」と首を傾げながらも、物を作り続けるビジネスモデルに誰も社内で異を唱えなかったのでしょうか。

会計処理的に作った服はどういう扱いになるんでしょう。キャッシュで見ると火の車というアパレル企業は大勢ありそうです。

 

ただし、この「繊維流通統計」のデータは、殆ど信用できません。

すでに報道にある通り、繊維流通統計は組織ぐるみで改竄されたデータであったことが明るみになっています。

繊維流通統計調査における不適切な処理について
http://www.soumu.go.jp/main_content/000467973.pdf

回答者数の水増し、過去データの流用が行われていました。

既に繊維流通統計は廃止され、過去データも「信憑性が確保できない」との理由で非公開になっています。2002年、2003年が空白なのはそのためです。

政府は繊維業界を正確に見るつもりがもう無いし、アパレル業界も正確に分かるとヤバいようです。臭いものに蓋をしても、その臭いはやがて世間に漏れ渡るというのに。

 

ありえないほど店舗が増えているが、ものすごく需要が伸びているわけではない

点数が増え続けているので、店舗は増えているはずです。

経済産業省の商業統計によると、売り場面積は増え続ける一方で、商品販売額は1991年をピークに減少し続けています。

 


 

1991年から2007年にかけて売り場面積は約15%増えています。それなのに商品販売額が3分の2ってどういうことでしょう。(この金額感は矢野経済研究所とほぼ合致していますね)

 

僕らが子供の頃と比べて何が変わったかといえば、大規模ショッピングセンターが増えたことです。

2000年に大規模小売店舗法が廃止されて以降、全国各地にショッピングセンターは増えています(※5)。

 


 

しかし図の通りで、ショッピングセンターは増える、総テナント数は増える、しかし1店舗あたりの売上高は減る…つまり店舗の数が増えても需要が増えていないから相対的に減っているわけですね。

おそらく店舗の数を増やす方が先で、後から「じゃあ点数多く作らなきゃ」となったのだと思います。

それにしても、今はどの大型ショッピングセンターに行っても入っているテナントは同じですよね。どこに行っても同じような商品が並んでいます。

しかも、オムニチャネルとは言いますが、店舗を跨いだ在庫管理ができていないので、どこに行っても同じ商品が買えるわけではない。

結局はネットで買えばいいじゃん!となりますから「何しに店舗まで足を運んだと思ってるんや!」と腹立たしくもあります。

 

オーバーサプライ&オーバーストアが本質か?

これまでの結果より、今、アパレルで起きている問題は供給過剰に尽きそうです。オーバーサプライ&オーバーストア問題です。

1990年代以降に右肩下がりになっても、とにかく物作れば売れるだろ!という発想から抜け出せないまま、作りに作って店舗も増え続けた。

では、その結果、何が起きたのでしょう。

コストを下げるために海外に進出しまくった結果、国内生産比率は3%で、国内業者の数もほぼ壊滅です。

経済産業省の工業統計によると、繊維関連企業事業者数は右肩下がりです。

 


 

事業所数は7分の1、従業員数は6分の1になりました。

中国の人件費が上がってきて国内回帰しようにも、作れる企業も作れる人も殆どいない。水をやらなかった花壇に咲く花はありません。花だけ積もうなんて都合が良すぎますよね。

 

一方で売り場面積が増え続けたおかげで販売員の数も増えました。しかし、物が売れないので給料が上がりません。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、販売店員(アパレル以外も含んでいます)の年収は320万ほどです。

最近年収が低いと話題の保育士さんも同じくそれぐらいの年収のようです。

私の友人はショップ店員だったのですが、「このままじゃ服が嫌いになる」と言い残して11年間勤めたアパレルを退職しました。

 

では、本質は「供給過剰」でしょうか。

私はそうは思いません。本質は「物を作れば売れる」というプロダクトアウトな発想、すなわち「未だ時代がマーケティング1.0」に留まっている点にあると考えます。

ユーザーが何を求めているか分からないまま「これが服です」と押し付けている現在の形態そのものに問題があるのではないでしょうか。

つまりアパレル業界の最大の問題は「マーケティング不在」なのです。

消費者に「欲しい服が無い」と言わせている時点で、それはマーケティングの敗北です。

ちょっとインスタが流行ったからってショップ店員はインフルエンサーじゃなきゃダメとか言っている人には、ぜひともコトラーの「マーケティング4.0」を読んで欲しいですね。

 

そういえば以前、個人的な相談としてあるアパレル企業のデータ分析をお手伝いしたことがあります。

その時に驚いたのは、企業内に「データ」が不在な点です。

百貨店に店があってもPOSデータは貰えていないから、何がどれくらい売れているか分からない。在庫データは既に破綻しているから使い物にならない。

誰が買ったかは現場に立っている販売店員が知っているけど疲弊しているからこれ以上の作業負荷は掛けられない。

見てはいけない箱を開けた気がしました。

 

今、なぜ、その服が売れているのか、私見じゃなく数字を使って、客観的に論理的に説明できるアパレル関係者はどれくらいいらっしゃいますか?

アパレル不況の理由の原因は、それに尽きるのではないでしょうか。

以上、お手数ですがよろしくお願いいたします。

 

参考資料

photo

誰がアパレルを殺すのか
杉原 淳一 染原 睦美
日経BP社 2017-05-25

 

 

※1:ファッション業況調査及びクールジャパンのトレンド・セッティングに関する波及効果・波及経路の分析
http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/creative/fashion_gyoukyou_gaiyou.pdf

※2:全国百貨店売上
http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/view_past_data?month=12&year=2008

※3:新しい消費水準指数(世帯人員及び世帯主の年齢分布調整済)の公表について
http://www.stat.go.jp/data/kakei/point/pdf/point07.pdf

※4:繊維産業グローバル展開調査分析報告書(P.12より)
http://www.smrj.go.jp/keiei/dbps_data/_material_/common/chushou/b_keiei/keieiseni/pdf/chosa04.pdf

※5:日本ショッピングセンター協会
http://www.jcsc.or.jp/sc_data/data/overview

アパレル・サプライチェーン研究会報告書
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/seizou/apparel_supply/pdf/report01_01_00.pdf